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陽はまた昇る



 風駆け抜ける丘、黄金館がその上に聳え立つマーク王国の都、エドラス。
 今日も太陽と馬を抱く旗が勢いよくはためき、陽光の中に聳え立つその館は荘厳だった。

 館の前には石畳が敷き詰められ、そこから都と辺りの様子が一望できる作りになっている。そこに何やらせわしげに歩き回る男が1人。
 彼は午前中からそこでウロウロしていた。太陽に輝く金髪が、動くたびに背中の方で揺れている。彼は時折、都へと続く道の方を眺めていた。

 彼はマーク国王、セオデンの1人息子、セオドレド。エオルの子といえば、勇敢に馬を駆る猛き戦士、というのが一般的であるが、この王子は剣の腕も立つが、気立ての良い心優しい男であった。だが、それ故に彼は父からも部下からも民からも愛されていたのである。
 やがて、白くゆるやかなドレスをまとい、金色の髪をなびかせながら1人の女性が館から現れ、彼の元へ歩み寄る。
「セオドレド、その、知らせが来るまで中に入って待っていたらどうかしら?」
「やあ、エオウィン。いや、それは無理だよ。じっとしていられないんだ。」
「・・・その様ね。」
 少し興奮して頬を上気させている従兄弟を見て、エオウィンはくすり、と笑いを漏らした。
「・・まるで子供みたいだわ。」
「そうかな?それよりエオウィン、我が姫。中の方の準備は整ったかな?」
「はい、すっかりと。それを知らせに来たのよ。」
「そうか、ありがとう。」
 そう言うとセオドレドはにっこり微笑んでエオウィンの柔らかな髪を撫でた。
 エオウィンはずっと昔から、年の離れたこの優しい従兄弟からこうされるのが好きだった。
「それじゃあ、私たちは中のほうで待っています。」
「ああ。」
 エオウィンが館に戻ると、セオドレドは再び街道の方へ目をやった。

 数日前、ゴンドールとの国境に近い駐屯地で警護に当たっている部隊から伝令が届いた。それはゴンドールの執政家の長男、ボロミアがこちらに向かっているとの事だった。
 何かと物騒になってきたこの時勢に、その知らせは喜ばしいものだった。ゴンドールの総大将にして白き塔の長官、ボロミアといえば、このローハンの地でも知らぬ人がいない程、武勇に秀でた剛の人だと言われている。
 国境で起こったオーク軍との戦いで彼を見た兵たちは、馬に乗り、自軍の兵たちの先陣をきって剣を振るうその姿はまるで鬼神の様であったと言っている。また、兜の下にはまるでエオルの子の様に輝く髪と、その闘う姿からは想像できない様な柔らかな笑顔の持ち主だ、とも。
 そういう噂が兵や民の間でまことしやかに囁かれていたのであった。
 そのボロミアはセオドレドと同じ年で、今よりもまだ平和だった頃、互いの国を行き来し合っていた程に仲が良かった。同じ年で、互いに跡とり同士、幼い頃から片親で育ち、大切な兄弟がいる、そんな共通点が多かったのもあいまって、離れてはいたけれど2人は深い友情で結ばれていた。
 こんな時勢となり久しい間2人は会うことが適わなかったが、今久々に会う機会を得て、セオドレドはその知らせを受けてからというもの心が踊りっぱなしであった。

「あ!」
 門へと続く街道に、ぼんやりと人影が見て取れた。セオドレドは急いで馬屋へ行くと、愛馬の頭を軽く抱いて、鞍にまたがる。
「さ、我らが友を迎えに行こう。」
 主人の言葉に応えるかのように馬は一声嘶くと、馬屋を飛び出した。
 巧みな手綱さばきと呼吸で、1人と1頭は馴染んだ道を駆け抜けて行く。

「あらあら、今駆けて行ったのは王子様じゃないかい?」
「その様だねぇ。」
「ずいぶん慌ててたけど・・・また戦かねぇ?」
「いいや、あれはそんな顔じゃないよ。」
「そんな顔じゃないって、じゃあ、どんな顔さ。」
「そうだねぇ・・・さしずめ、待ち人来たり って感じかねぇ。」


「もう少しで着くな。・・・ここに来るのも久しぶりだ。皆変わりないだろうか。」
 馬を早足で進ませながら、次第に近づいてくる丘の都を眺め、ボロミアは呟いた。すると遠くの方で人影が目に入る。
「!」
 ボロミアは鐙を蹴り、その人影に向かって馬を走らせる。
 ああ、やはりセオドレドだ。
 馬上から手を振ると、向こうも手を振ってボロミアに応えた。

「セオドレド!」
「ボロミア!」
 2人は馬を寄せて、互いの腕を取ると軽く抱き合う。
「よく来たな、ボロミア。」
「ああ。・・・一国の王子がたった1人で外に出るなんて。」
「そう堅いことを言うな。友人を迎えに来ただけさ。」
「・・・久しいな。」
「ああ。本当に。」
 そうして2人は馬を並べて歩き出す。
「父もエオメルもエオウィンも、お前が来ると知って喜んでいる。」
「そうか、それはありがたい。皆、元気でおられるか?」
「ああ。息災だ。そっちはどうだ?デネソール公やファラミア殿は。」
「まあ、皆元気でやっている。」
 そんな事を話しながら馬を進めていくと、何やら門のほうが騒がしい事に気づく。
「・・・セオドレド。私が来る事を皆に知らせたのか?」
「いいや?内々の者しか知らないはずだが・・・」

 2人はエドラスの民から歓声を受けて入門した。大人も子供も、男も女も、なぜか訓練中の兵士たちも交じり、野太い声を上げている。
 ゆっくりと馬を並べ、人々の歓声に手を挙げ、笑顔で応じ、黄金館へと進んでいく。
 2人が揃って笑顔を向けると、ほうぼうから2種類の叫び声が聞こえてくる。
「キャーー!!」という若い女たちと、「おおぉーー!!」という男たちの声。

「キャー!!見た?見た?あのお方がゴンドールのボロミア様!何て素敵なお方かしら!」
「噂にたがわぬお方ね。見てよ、あの輝く黄金の髪!あのたくましい体!本当にロヒアリムみたい。」
「キャァぁーーー!!今お2人で笑ったわ!!なんて、なんて笑顔でしょう!!とろけてしまいそう・・・いやーん、もう一回~!!」
「おお!あの御仁がゴンドールの総大将・ボロミア殿か。何と立派な。」
「ゴンドールのお人ながら、まるでエオルの家の子の様に馬を操るではないか。」
「・・・本当にあの様に笑う人が、鬼神と呼ばれているのだろうか。」
「ウチの王子と並ぶと、また一段と可愛らしいなあ・・・」

 そうして坂道を登り、黄金館の前に着く。そこにはセオデン王を始め、多くの人々が2人を待っていた。ボロミアは馬から下り、セオデン王の前に来ると片膝を着いて頭を垂れる。
「ボロミア殿、よく参られた。さ、顔を上げられよ。」
「お久しぶりで御座います、セオデン王。お元気そうで何よりです。」
「ボロミア殿はまた一段と立派になられたな ・・・本当に。そなたが来てくれて、我らも、我が民も喜んでおる。」
「それです、父上。何故あの様な迎えが?彼が来る事は一部の者しか知らなかったはずなのに。」
「一国の王子がこんな昼間から都の中を馬で駆けて行くんですもの。誰だって何かあると気がつきますわ。」
 セオデンの横で控えていたエオウィンが口を開く。そしてボロミアの方を向くと、ドレスの裾を掴み、一礼した。
「お久しぶりでございます、ボロミア様。」
「エオウィン殿、お久しぶりです。・・・最後に会った時よりも美しくなられた・・」
「・・ありがとうございます。」
 嬉しそうに頬を染めるエオウィン。
 一通り挨拶が済み、一同はわいわいと館の中へ入って行く。

 その日はささやかながら、宴が催された。数人から成る楽隊がそれぞれの楽器を奏で、あちらこちらでグラスを合わせる音が聞こえる。ボロミアの元へはゴンドールの総大将をひと目見ようと、その武勇伝をぜひ拝聴したいとひっきりなしに人が詰めかけていた。広間の端々では、給仕の女性たちが仕事の合間に、かの人の姿をこっそりと眺めてはうっとりとため息を漏らしている。
 宴もたけなわになった頃

「ボロミア殿!」
「おお!エオメル殿!」
 鎧を身につけたまま、エオメルが呼吸も荒く広間にやって来た。
 ガシャガシャと音を立てながら駆け寄るエオメル。ボロミアの隣のセオデン王に気づくと慌てて一礼する。
「ははは、エオメル、良く帰った。よほど急いで来たみたいだな。さ、我らが客人に挨拶を。」
「お久しぶりに御座います、ボロミア殿。」
「エオメル殿、・・・しばらく見ない間に随分立派になられて。」
 そう言って、見上げるほどになったエオメルに笑いかけ、抱擁をする。
「大きくなったろ?私もとうとう背を追い越されたんだ。」
 ひょいとセオドレドがエオメルの肩に手を回す。
「彼の背を超えたのはもう大分前なのに、今だこの事を引き合いにするんですよ。」
「言うじゃないか、エオメル。この間までピーピー泣いてたのになぁ・・・」
「せ、セオドレド!・・・まったく、酔うと昔の話ばかり持ち出すんだから。」
「ふふ、私も懐かしいよ。」
 そう言って笑うボロミアの顔に、エオメルは懐かしさが蘇った。
「まあ、エオメル。せめて着替えくらい済ませくればいいのに。」
 そう言ってやって来たのはエオウィン。小ぶりのグラスを手にして、やや頬を赤く染めている。
「ボロミア様、兄はよほどボロミア様に会いたかったのですわ。夕べ兄の元へ伝令を出したんです。今日貴方が来るという事を知らせる為に。そしたら、一日もしない内に戻って来たんですもの。よっぽど急いで馬を走らせたんですわ。」
「え、エオウィン!・・お前、酔ってるな?」
「それは、ご苦労でしたな、エオメル殿。貴方も、貴方の部下も馬たちも大丈夫ですかな?」
「は、はいっ。少々疲れておりますが、大丈夫です。」
「ああ、堅苦しい話はそこまで!さ、エオメル、駆けつけ3杯だ。エオウィン、グラスと酒を。」
 やはり酔っ払っている従兄弟がそう言うと、周りから「おおぉー!」と歓声が上がる。エオウィンがジョッキ(大)とエールの瓶(特大)を兄の為に持ってきた。
 半分ヤケになって、エオメルがジョッキ3杯を1分と経たない内に飲み干すと、周囲から拍手が起こった。セオデンもにこにことその様子を見ている。

「ボロミア様、実はセオドレドも貴方に会いたがってましたのよ。今朝はいつにない位早起きをして、ずーっと館の前からボロミア様が来ないか街道の方を見張ってたんですから。」
「そうなのか?セオドレド。」
 こちらもいいかげんとろーんとした目つきのボロミア。
「・・・ウチの姫は酔うと饒舌になるのだな・・・まァ、そうだ。知らせを聞いてからずっと待ち遠しかったよ。何せ、しばらく会ってなかったからなー」
 酒の勢いもあってか、この40の長男たちは互いの名前を呼び合うと、何とも力強く熱苦しい抱擁を交わしたのであった。
「セオドレドぉーーー!!」
「ボロミアぁーーー!!」
 何故か湧き上がる歓声と拍手、盛り上がる人々。
「ふむ、どうやら我が家はみんな、ボロミア殿の事が好きなのだな。」
 愛する甥と姪の肩に手を回す赤ら顔のセオデン。
「はい!」
 声を重ねて返事をする兄妹。
「じゃ、お前たちも加わってきなさい。」
 トン と2人は背中を押されてその抱擁に加わった。
「おおっ!我が愛しの弟妹たちよ!!さ、おいで」
「セオドレド~、ボロミアさま~」
「お2人とも、大好きですーー!!」
「はっはっは、エオメル、エオウィン、私も君たちが大好きだよ~」
 満面の笑みを浮かべてその光景を見守るセオデン。
 こうして宴の夜は更けていった。



― 翌日 ―

 もう陽も大分高くなった頃、ボロミアはようやく目が覚めた。
 ズキズキする頭を押さえ、ここはどこかと周囲を眺めた。
「おう、起きたか。」
「・・・ここは、お前の部屋か?」
「そうらしい・・・」
 どうやらここはセオドレドの部屋で、2人は一緒のベッドで横になっていた。
 すぐ脇には水と衣服の支度がされており、それを見たボロミアは急に喉の渇きを覚える。なみなみとグラスに水を注ぐと、一気に飲み干した。そしてもう一つのグラスにも水を注ぎ、セオドレドに渡す。
「ありがとう・・・・・ もう昼近くらしい。あんなに日が高い。」
「うむ。・・・夕べはちょっと飲みすぎた。・・・いかんなあ、旅の途中なのに。」
「まあ、いいじゃないか。お前の滞在が伸びれば・・・皆喜ぶ。」
「それはありがたいが、あまり長居もできないからな・・・」
 そうして2人は身支度を済ませ、部屋を出た。



 ボロミアがローハンに寄ったのは、馬を借りる為であった。
 自分が国から連れてきた馬が、その道中で調子を悪くした為、代わりの馬を求めてここへやって来たのである。

「いやぁ、良い馬が見つかって助かった。さすがローハン。」
「助かったのなら何よりだ。馬具の方は今日の夕刻には出来上がるらしい。出立は・・明日か?」
「ああ、朝一番に出発する。それまでもう少し世話になるよ。」
「かまわんさ。お前ならいつでも大歓迎だ。・・・それで、ボロミア。私はこれから用事があるから、後は夕食までゆっくりと休んでくれ。」
「そうか、では、その辺を散歩してくるよ。」
 そうして2人は別れる。


   エオウィンと一緒 →            エオメルと一緒 →            セオドレドと一緒 →



 さて、そうして今日という日も暮れた頃。
 ボロミアはセオデン王やセオドレド達と夕食を共にすると、明日に備えて早々に床に就いた。明日は日が昇る頃には出発する予定だった。
 そして次の日、ようやく白みかけた空の下、ボロミアが黄金館の前に馬を連れて立っている。見送りの為にセオデン、セオドレド、エオメル、エオウィン、そして僅かな臣下たちがそこに居た。
「それでは、セオデン王。お世話になりました。」
「今度はゆっくりと酒でも酌み交わしたいものだな。」
「そうですね、ぜひ。父上やファラミアも一緒に。」
「楽しみにしている。」
 そうしてセオデンに一礼すると、ボロミアは馬に乗る。
「道中お気をつけ下さいね。」
「ええ、肝に銘じておきます。」
「近くに来た際は寄って下さい。今度は貴方から一本取ってみせます。」
「たのもしいな、期待してるよ。」
 一人一人と握手を交わす。セオドレドは自分の馬にまたがってその様子を見ていた。彼は城門までボロミアを送る事になっていたのだ。
 ちら っと雲間から光が漏れる。それを見ると、ボロミアは手綱を取り、ゆっくりと坂道を下っていった。見送ってくれる人々に最後まで笑顔を向けながら。
 やがて城門までたどり着く2人。

「・・・では、ここでお別れだな。」
「ああ。色々世話になった。助かったよ。」
「何、気にするな。それより・・・・」
 言葉に詰まるセオドレドを見て、ボロミアはバシっと肩を叩く。
「また会おうと昨日言ったろ?同じ事を二度言わせるな。」
 そう言ってにやりと笑う。
「そうだな、そりゃそうだ。・・・元気でな、ボロミア。」
「セオドレド・・お前もな。」
 しばしの間握手を交わす。
 どちらからともなく手を離すと、ボロミアは馬を走らせる。
 陽光に照らされたその背中が見えなくなるまで、セオドレドはそこに立っていた。


 そうして陽が昇り、今日がやってくる。


          END

 ボロたんエドラス訪問記。
 裂け谷に行く途中、エドラスに寄ったボロミアの様子を妄想 想像を膨らませて書いてみました。
 はっはっは。最近はロヒアリム・ボロもいいと思うようになってきました。この境遇の似ているボロミア&セオドレドが前から気になってたんですよ~♪で、何とか書き終えましたが、どうでしょう?
 エオウィンもエオメルもセオドレドも純粋にボロミアを慕っているんですよ。(少なくともこの話では)特にセオドレドは親友です。心の友、と書いても過言ではないような。「セオドレドといっしょ」ではあの表記は誰視点なんだ!と思わせるような箇所もありますが、それは読む方のお好きな方向で(笑) 
 あんまり明るいままEDを迎えると余計寂しさが募ってしまいますので、押さえてみました。が、実はちょいと切なめな気分になってしまう(かもしれない)別EDが下に用意してあります。あれはあれ、これはこれ、とはっきり考え分けができる方はドウゾ。













 それから数年後

 エオウィンは夫のファラミアと共にミナス・ティリスを訪れていた。
 この日はローハンにいる兄や、シャイアにいるホビット達がここを訪れ、かの人の墓に参る事になっているのだ。
 ファラミアがエレスサール王と話をしている間、エオウィンはこっそりと一足先に王家の墓地にやって来る。
 ボロミアの墓標の前に立つと胸に手を当て、祈りの言葉を手向ける。
 膝をついてその目を閉じる。目を閉じれば、あの笑顔が今でも蘇る。

 ・・・ボロミア様、わたくし、あの後必死になって剣の稽古をしましたのよ。貴方の言うとおり、盾を使って闘う方法も。・・・正直、剣を軽いものに代える様にと言われた時は少し抵抗がありましたけど・・・・でも、そのおかげで、今、私はここにいます。そして、弟君とも出会うことが出来ました。今は・・・わたくしは貴方の妹ですのよ。

 そう言って微笑を浮かべる。

 ・・・貴方の仰る通り、ミナス・ティリスは素晴らしい都ですわ。でも、・・・貴方のいる都を訪ねてみたかった。
 一度だけでも・・・

 彼女はあの時の約束を兄にも従兄弟にも夫にも話していなかった。
 果たされる事の無かったあの日の約束は、今も彼女の胸に。



 ボロミアの墓参りが済んだその日の夜、エオメルは1人で再び墓地へと向かった。
 昼間来たばかりの墓の前に立つと、まずは深く頭を垂れる。
 そうして両膝をつくと、懐をさぐった。そこから出てきたのは2輪のシンベルミネの花。

 ・・・セオデン伯父と、セオドレドの墓から持って参りました。多分、お2人も貴方に会いたいと思ったので・・・

 そう言ってそっと花を置く。

 ・・・私は、マークの国王になりました。妹は貴方の弟君の妻となり、今度私は、貴方の叔父上の御息女とけ、結婚することになります。
 一度、貴方の事を『兄上』と呼んでみたかった。・・・その、ファラミア殿には悪いとは思いますが。

 ボロミアを兄と呼べるのは、たった一人、ファラミアだけ。それは彼の周囲では暗黙の了解であった。

・・・貴方の言葉は今でもこの胸に刻まれております。あれから、多くの屍を後にしてきました。悲しい事も思い出せない位あります。 私は今も、そしてこれからも、王家に生まれた者としてその責任をまっとうする覚悟です。伯父や、セオドレドや、貴方がそうした様に・・・




 夕陽が沈みかけ、2人はエドラスに戻る為に再び馬を歩かせた。その途中、思い出したようにセオドレドが口を開いた。

「実はな、今度アイゼンガルドから相談役がやって来る事になった。」
「アイゼンガルドから?」
「そうだ。白の賢者殿と縁のあるお方らしい。今のローハンには知恵のある人が必要だという事になってな。」
「そうか。白の賢者と縁のある方なら頼もしいじゃないか。」
「まあな。・・・もう日が暮れるな。じゃあ、もう少し走ってこようか。」
「ああ、そうしよう。」

 そうして2人は駆けていった。


 さらにオマケ

「ふむ。ボロミア殿は真、素晴らしい方だ。」
「そうですね、父上。」
「しかも見た目も性格も我らロヒアリムにそっくりだ!」
「それは・・その通りですね。」
「何とかしてボロミア殿をローハンに迎える手立てはないものだろうか・・」
「そうです・・・え!?」
「幸いお前たちは実の兄弟のように仲が良い。かといって、デネソール殿が長男を国外へヨメに出すのは考えられないし、」
「よ、ヨメ?誰が?ドコに?」
「かといってこちらも1人息子を手放したくないしなぁ。」
「私をドコに手放すと言うんです?一応王子ですよ。この国の。」
「・・・いっそローハンとゴンドールの間に新たに国を興す、というのはどうだろう。もちろんお前とボロミア殿が共に手に手を取って治めるのだ。良い折衷案ではないか。」
「どうしてそれが折衷案なんです?何で私とボロミアが?というか何の折衷案ですか!?」
「しかしそれには多大な費用と労力がいるからなあ・・・やはり半年毎にローハンとゴンドールに交互に住む、というのが妥当だろうか・・・」
「誰が、どうしてそんな面倒なことを?」
「なあ、セオドレド、お前ゴンドールに婿に行ってくれるか?ローハンはエオメルにまかせて。」
は?
「それとも何とかボロミア殿にローハンに嫁に来てくれるよう口説いてくれないか?お前案外そういう事は得意だろう?」
「どうしてボロミアが嫁なんです?」
「お前が婿(役)だから(何故か決め付け)。」
ち、父上ーー!!