セオドレドと一緒


「おお、ボロミア。ここにいたか。」
 ボロミアが部屋で剣の手入れをしていると、扉が開き、セオドレドが入ってきた。
「用事は済んだのか?」
「ああ、終わった。なあ、今からちょっと外へ行こうか?」
「外、と言うと?」
「街の外だよ。少し馬を走らせよう。」
「ああ、わかった。」
 そうして2人は馬に乗り、街の外へと駆けて行った。

「ついて来れるか?ボロミア。」
 にやりと笑いながらそう言うと、セオドレドは手綱をぐいっと引き、鐙を蹴ってそのスピードを上げていった。 
「む、さすがに速いな。」
 ボロミアもスピードを上げる。2頭の馬が風を切り、砂埃を巻き上げながら走っていく。
 そうして2人はしばらくの間思い切り馬を走らせていた。
 追いついたり、追いつかれたり、並走したり、斜面を駆け登ったり。
 馬を走らせている間、2人は終始笑顔を浮かべていた。この時間だけ、2人は何ものにもとらわれず、只の友人同士でいたのであった。

 やがて2人は小高い丘に向かって馬を走らせ、その頂上で馬を止める。
「ふう、こんなに馬を駆ったのは久しぶりだ。」
「そうか?」
「やはり乗馬でロヒアリムには勝てんな。相変わらず速い。」
「何、ゴンドリアンにしてはなかなかやるじゃないか。・・・腕を上げたな。その髪の色といい、気質といい、昔からお前は我らに良く似ている。」
 ふっとセオドレドの顔が緩む。ほんのりと紅に染まりかけた陽に照らされたその顔に、昔の記憶がボロミアの頭をよぎった。途端に懐かしさが胸にこみ上げる。

「・・・弱ったな。」
 山間に沈みかけている太陽を眺めながらボロミアが呟いた。
「どうかしたか?」
「・・・離れ難くなってしまう。明日には出発しなければいけないのに・・・」
「その方が我々も喜ばしいんだがな。」
「セオドレド。」
「軽い冗談だ。」

 違う。
 かなり本気で願っている。
 叶うのならば。叶わぬ願いと知りながら、それでも、君を。 君と。

「ボロミア。」
「何だ?」
「イムラドリスから帰る際にはまた寄れよ。」
「ああ、そうさせてもらうよ。」
「また馬に乗ろう。」
「そうだな。・・・また夕陽を見に来よう。」
「夕陽ばかりじゃつまらないな・・・たまには早起きして朝日でも見に行こうか。」
「朝日か。・・・悪くないな。」

 どんなに辛くても、どんなに涙が流れても、こちらの事情は関係無しに時は過ぎる。今日も一日が去ってゆく。
 そして、明日がやってくる。
 この次に眺める景色が、今 眼に映るものと違って見えるように。その為に、私は私の闘いを続けよう。
 いつか望んだ世界の中で、再び友の隣に立つ為に。
 明日には また昇る陽を、信じて。