a sleeping beauty



 ここはNZランド。只今ロードオブザリングの映画撮影が行われている。
 一度に全3部作を撮影するので、長期撮影が予定されていた。

 ボロミア役の英国人俳優、ショーン・ビーンは本日の撮影は午前で終わっており、家に戻っていた。もちろん英国の自宅ではない、NZランドにあるレンタハウスである。

 自宅に帰ってから軽くシャワーを浴びると、まだ濡れた髪のままラフな服に着替え、冷蔵庫から缶ビールを取り出すと庭に出た。
 庭にある小さな物置から土にまみれた園芸用のエプロンと軍手、その他道具一式を取り出し、鼻歌まじりで身につけると庭の片隅にある花壇に向かう。
 ここの家に住むようになって間もなく作った花壇。そこに植えた花たちは順調に育っている。日に日に成長していく花壇を見守り、育てていくのが嬉して、楽しかった。
 ビールを一口飲むとパシン と手を打ち、花壇の雑草を抜き始める。
 小一時間も経つと花壇からポツリポツリと生えていた雑草はキレイに無くなっていた。それを見て満足そうに微笑むショーン。軍手を外すとトントンと腰を叩きながら片手でビールをあおる。一仕事終えた後の一杯はたまらない。
 時計を見ると1時過ぎだった。そういえば小腹が減っているのに気づく。
 ふと空をみれば快晴だった。 しばらくぽかん と空を見上げる。

「・・・今日は外で食べようかな。」
 そう1人ごちると、ショーンは家の中に入っていく。
 ダイニングでパンを見つけると、冷蔵庫からマーガリンと適当な具を取り出し、何とも男らしい手つきと感性でサンドイッチを作り始めた。
 その出来栄えに満足し、冷蔵庫から新たなビール缶を取り出すと、ショーンは再び庭へ向かう。庭の、花壇がよく見えるポイントに置いてあるパラソルとテーブルと2組のデッキチェアに向かう。テーブルに食べ物を置いて、サンダルを脱ぐとどかっと横になった。

 ふぅー と一息つくとお手製サンドイッチをほおばる。ピリッとマスタードの味がした。そうしてビールを一口。心地よい刺激が喉を通っていく。
「・・・まだ撮影してる連中に悪いなあ・・・」
 ボソっと呟いた。 全3部作を一度に撮影しているので、時には他の仲間達と会えない日々が続く事もある。今日もそんな日だった。
 明日か、明後日には、また第1部の撮影が予定されていたからな・・・楽しみだ。
 目を閉じてフェローシップ達の顔を思い浮かべると、自然と口元が緩む。彼はこの撮影が楽しくてしょうがないのだ。

 しばらくすると、彼は静かな寝息をたてていた。今日はとても心地よい日だから。
 すると、向こうから誰かやって来た。黒く縮れた髪で、やはり黒くて長い服を着ている。デッキチェアで微動だにしないこの家の主の姿を見つけると、足音を忍ばせて庭に入ってきた。

「やれやれ、せっかく早めに終わったから飲みに誘いに来たのに。」
 小さく呟いて笑みを浮かべ、眠っているショーンの顔をここぞとばかりにじっくり見つめる。

 ・・・何て無防備なんだ、ボロミア。 見つけたのが私だからいいものを、もしホビットにでも見つかってみろ。絶対何かしらイタズラをされるに決まってる。
「・・イタズラ。」

 してみようかな

 そんな考えが頭をよぎった。
「よく、眠ってるみたいだし・・・」
 すっ と男はかがみこむ。間近に迫る無邪気な寝顔。
 わずかに開いた唇からはかすかな寝息が聞こえていた。

 こんな無防備な姿をさらしてるアンタも悪い。







「ん?ふぁ、ア―――!」
 寝そべったままショーンは手足を伸ばし、豪快なあくびをする。
 いつの間に眠っていたらしい。まだ頭がぼーっとしてる。

「mornig、お姫様。 よく寝たかい?」
「うわ!」
 不意に声をかけられて驚きの声をあげるショーン。振り向くと、
「び、ヴィゴ!!い、いつからそこに?」
 テーブルを挟んで向かい側のデッキチェアに、共演者のヴィゴ・モーテンセンが座っていたのである。 アラゴルンの衣装のままで。
「15分ほど前かな?撮影が予定より早く終わったんで飲みに誘いに来たんだが。」
「な、なら起こしてくれればよかったのに。」
「だって、アンタがあまりにも気持ち良さそうに眠ってたから起こすのが可哀相で。」
「・・・それで、ずっとそこにいたのか?」
「ああ。」
「そこで何を?」
 やや顔を赤らめながら尋ねた。
「・・アンタの寝顔を見てた。気持ち良さそうに眠ってたぜ。」
 イタズラっぽい笑みを浮かべるヴィゴ。
「あ、あのな。」
「ついでに、」
 そう言ってヴィゴは衣装をさぐり、ある物を取り出した。
「コイツで寝顔を撮らしてもらった。良い画が撮れたよ。コレ、次の写真集で使っていいかい?みんなのスナップをいくつか載せる予定なんだ。」
 そう言って使い捨てカメラをちらつかせる。
「ヴィゴ!人に黙って変な写真撮るなんて!」
「変な写真じゃないさ。芸術だよ、artさ。」
「とにかく!ひ、人に見せるなんてゴメンだ。」
「そんな事言わないで、載せてもいいだろ?きっと・・・大勢の人が喜ぶ。」

 ウソだ。

「いーや、ゴメンだ。フィルムを使い切ったらネガごと寄こしてもらう。」
「皆の自然なショットが欲しかったんだ。アンタだけじゃない。皆のも撮ってるんだぞ。」

 こんな写真、他のヤツに見せてたまるか。

「・・・それでも寝顔だけは勘弁してくれ。恥ずかしい・・・」
 本当に恥ずかしそうに顔半分を手で押さえるショーン。 やや上目遣いなのがまた愛らしい。
 ・・・・そんな目であまり長い事見ないでくれ。コッチが恥ずかしくなってくる。
「・・アンタがそこまで言うのなら、この写真は使わないよ。」
 ホッと胸を撫で下ろすショーン。
「その代わり、ガーデニングをしているアンタを撮らせてくれないか?」
「この間撮ってたじゃないか。」
「別のショットも欲しい。そうだな・・花の成長に合わせて撮りたい。ホラ、観察日記みたいに。」
「花の成長・・・それは、面白そうだね。」
「よしッ、決まりだ。これからちょくちょく様子を見に来るよ。」
 すっとテーブルの上に手を差し出すヴィゴ。ショーンは、仕方ないという風にパシッとその手を叩く。

「で、話は変わるが、これから飲みに行かないか?」
「・・・その格好で行くつもりかい?」
「ダメか?」
「・・せめて顔の血のりと土を落としてくれ。」
 すっとショーンの手が伸びて、ヴィゴの頬の辺りを拭う。
「・・・」
「ヴィゴ?ほら、洗面所貸すから、早く。」
「・・ああ。借りるよ。」
 うつむき加減で頬を押さえながら歩くヴィゴ。
 洗うのがもったいないな。

「なあ、ショーン。」
「何だい?」
「小さい頃好きだった童話ってあるかい?」
「どうした?いきなり。」
「いいから、教えろよ。」
「そうだなあ、ガリバーとか・・ピノキオとか、ピーターパンとか、かな?」
「白雪姫や眠り姫は?」
「読んだ事はあるが、ちょっと退屈だったかな?でも娘達には繰り返し読んでやったよ。女の子はお姫様モノの話が大好きだから。」
「・・・知ってるか?眠ってるお姫様を起こす方法、あれは結構実践向きじゃない。」
「は?」
 そう言うとヴィゴはクスリ と笑うと足早に家に向かう。
 ショーンはしばしポカン と小首をかしげ、その後姿を見ていた。
 どういう意味だろう?まあ、芸術家肌の人間は、時に凡人にはわからない事を言うものだからな。
 そう決めつけ、ショーンはその背中を追って歩き始めた。


                                         おしまい   


アトガキ
 王様、次期執政の寝込みを襲う。   藻豆NZ滞在紀第2弾!!でゴザイマス。前回よりはちょっと前進したかも(一方的に)。今は藻豆ばっかですが、その内花やオールキャラのドタバタなんか書きたいですね。頭にはプロットがぼやーっと浮かんでいます。  好きな童話。ガリバーが童話ではなく、風刺文学だと知ったのは割と大きくなってからです。イギリス人はやっぱイギリス系の話になじみがあるのかなあ、と。くまのプーさんもイギリスですよね、ピ−ターラビットなんかも。男の子ならホームズ(笑)それとも伝説的探検家が活躍する『キングソロモンの秘宝』?はたまた『宝島』や『ハックルベリー・フィン』や『トム・ソーヤー』か!?(これはアメリカか)なんだ、当サイトで扱ってる人だらけじゃないですか(笑)。 
 そして・・・ちゃっかり豆宅へ行く都合の良い理由を作ってしまったヴィゴさんでした(笑)