NZランド――― 南半球の2つの島からなるこの国で、ロード・オブ・ザ・リングの映画撮影が行われている。 構想や準備に既に数年かかっているこの作品はいよいよ役者達を迎えて、撮影に入ったのだ。 長期撮影の為、役者達はそれぞれ、居住用の家やトレーラーをあてがわれていた。 それは久しぶりのオフの日のこと。 ボロミア役の英国人俳優・ショーン・ビーンは、午前中から庭いじりを楽しんでいた。 半ソデのTシャツに、ゆったりとしたスウェット生地のハーフ・パンツといういでたちで、ビール缶を側に置きながら、花壇に穴を掘ったりしている。土だらけの軍手にスコップを握り締め、肥料をかき回している彼はとても楽しそうだった。 そろそろ昼にさしかかる頃 「精が出るな!」 「ヴィゴ。」 アラゴルン役のヴィゴ・モーテンセンが自転車に乗ってやってきた。 年齢やキャリアなど共通点の多いこの2人は気が合い、よく一緒にいる事が多かったのである。 「せっかくの休みに庭いじりか。」 「英国人だからな。 飲むかい?」 そう言って小さなクーラーを指差す。 「もらうよ。あ、アンタが出さなくていい。自分でやるよ。」 軍手を取ろうとしたショーンを制し、ヴィゴはパラソルの下に置いてあるクーラーから程よく冷えたビール缶を取り出して、側にあったデッキ・チェアに腰かける。 「今日はどうした?」 「いや、ヒマをもてあましてるんでね。」 「それで私の所へ?」 「ああ。アンタの家は何故だか落ち着く。」 「借家だぞ。」 「じゃあ、アンタと居ると落ち着くんだな、きっと。」 「そいつはありがとう。 ところで、昼は食べたかい?」 「いや、まだだが。」 腕時計をチラリと見ながら答える。 「じゃあ、もう少し待ってくれ。ここがひと段落したら昼にしよう。」 「ああ、わかった。」 そうしてショーンは再び土と格闘を始めた。 肥料の分量を量り、土と丁寧に混ぜていく。植える植物によってその分量は変わってくるので、その辺の調節が微妙なのだ。 そうして花壇の中に置かれた苗に、丁寧に土と肥料をかぶせていく。その大きな手に大事そうに土をすくって。 「・・キレイに咲くんだぞ。・・・この土が合うといいな。・・・」 その苗のひとつひとつに丁寧に話しかけていく。 『カシャ』 『カシャ』 不意に機械音が鳴り、ショーンは後ろを振り向く。 そこにはカメラを構えたヴィゴが立っていた。 「あ、ショーン、動くなよ。そのまま続けてくれ。」 「いや、しかし・・・」 「恥ずかしい、だなんて言うなよ。役者のくせに。」 「うっ・・・」 写真家としても知られている彼は、現場にもカメラを持ち込み、キャストやスタッフをよく撮っていた。今日もカメラ持参で来たらしい。 多少戸惑いながらもショーンは作業を続ける。 ヴィゴは何度かシャッターを切った後、その手を止めた。 ゆっくりと手を下ろす。 ファインダー越しにみるものじゃない 目に見えるものだけを収めるのが写真ではない。 目に見えない何かをとらえることだってできるのだ。 そう、思っていた。 けれど、 「どうしても、収められないモノってのがあるんだな・・本当に。」 その視線の先の人は、光を浴びて、土まみれになって、笑っていた。 小さな花の苗に、いとおしそうに話しかけながら。 この光景だけは、自分の眼で見ていたい。 「ふう、こんなものかな。」 そう言ってショーンは立ち上がった。 「お待たせ、ヴィゴ。」 「・・ん?あ、ああ。終わったのか。」 「どうした?ボーっとして。」 土だらけの軍手を外すと、それをポイっと放り投げる。 「それで、昼だけれど、どこかに食べに行くか?それとも何か作ろうか。・・作ると言っても簡単なモノしか作れないけど・・」 「ショーン、」 「何だい?」 振り向いたショーンの顔に、すうっとヴィゴが手を伸ばす。そして頬の辺りを指でこすった。 「・・鏡を見た方がいい。土だらけだ。イイ男が台無しだぞ。」 口の端を上げながらヴィゴが言った。そしてぺんぺん、と軽くショーンの頬をはたく。 「気をつけてたつもりなんだがな。」 「その土、肥料も混じってるんだろ?洗面所で洗ってこいよ。その間、私が昼食の準備をしておく。」 「いいのかい?へぇ、君の手料理か。」 「味の保障はしないぞ。」 「少なくとも私よりは上だろう。楽しみだな。」 そうして2人は家の中へと歩いていった。 いきなり撮影現場に放り込まれて、どうしようかと不安になったりもしたが、 とんでもない。これは神様がくれたプレゼントだ。 素晴らしい作品にスタッフ、共演者達。 そして、素晴らしい友人にも巡り会えた。 「えっと、台所はあっちだ、わかるよな?材料は・・ある物を適当に使ってくれ。 あ、少し散らかってるが、気にするな。」 「OK、ショーン。ところで、」 「何だい?」 「午後も庭いじりをするなら、私もぜひその手伝いをしたいんだが、構わないか?」 「ああ!もちろん。助かるよ。 ありがとう、ヴィゴ。」 握手の代わりに にっこり笑うと、ショーンはぱたぱたと洗面所へ駆けていく。 ヴィゴはしばしその場に立ちつくし、 「・・・間近で見ると、・・・アレだな。」 そうつぶやいて台所に向かう。 しばらくすると、トントン という音と、嬉しげなハミングが聞こえてきた。 よく晴れた、ある日の出来事であった。 おしまい |
後我来 好きだ好きだと言ってるクセに、4作目(フォーン3の前に書き終えました。アレはホントに突発的なものです。)でやっと本命のヴィゴショが書けました。恋の芽生え、なんでしょうかね? 自分の好きな『程度』というものがありまして、ほのぼので、片想い、というのが好きです。友達以上、恋人未満って、今時この言葉を使うというのも恥ずかしい・・・で、攻め側がやきもきするのだけれど、受け側はドコ吹く風。という様な。・・・要するに、天然な受けと、ヘタレな攻めが好きだ、ということです。 で、この話なんですが、まあ、ガーデニング豆とそれに見惚れる藻。ショーンが撮影にいたのは半年程でしたっけ?あのアモン・ヘンでの戦闘シーンは撮影の半分が過ぎた頃に撮った、とか言ってませんでした?というか、いつ頃、どのシーンを撮っていた、という表がほしいですね!!色々と参考になりそうなのに・・・。 豆&藻NZ滞在記、また書きたいと思います。花も。豆とハムさんが初めて会う、とかいうのも書いてみたいですねー。わずかな接触期間で、どうやってgreat friendsになり得たのか?ハムの一目ぼれか?それともラブラブ兄弟を演じている内に、役者本人にもその情が移ってしまったのか? ところで、よくキャラソングとか好きなカップリングに合う曲はこれだ!というのをヨソのサイトさんで見かけます。じゃあ私も、ヴィゴショソングって何かあるかなあ、と考えたのですが、すぐには思いつきませんでした。元々音楽は何かをしながら聴く習慣になっているので、あまり歌詞などじっくり読む機会がありません。ですが、ある日、ぴったりな曲を見つけました!丁度コレを書いてる辺りです。それは、LISAの『NATURAL COLOR』という曲。アルバムに収録されていて、シングルのカップリングにもなっています。その、曲とテンポと雰囲気がピッタリで。それで最近この曲ばっか聴いてます。ところが、歌詞の方をよくよく見ると、アラ不思議。あっという間に花豆ソングに早変わりなんです!リバーシブル・ソング!! それでは失礼しますー。 |