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眩しい太陽が照りつけるマルタ島。 今ここでは、歴史映画『トロイ』の撮影が行われている。 今をときめく売れっ子俳優たちや、彼らが子供の頃から銀幕で活躍しているベテラン俳優がこぞって 出演している大作である。 今日は久しぶりのオフの日。戦闘シーンを撮った次の日は、役者やスタッフの体を休める為にもオフに なる事が多かった。 その日、オデュッセウス役のショーン・ビーンは正午の少し前に目が覚めた。昨日は少しだけではある が戦闘シーンに参加したので、今日は目覚ましもオフにして心ゆくまで寝てやろうと思ったのだが、そうい う日に限って早めに目が覚めてしまう。 むっくりと起きると役の為に首辺りまで伸ばした髪を掻き上げる。長めの髪はキライじゃないが、こう暑い 場所だと少し鬱陶しい。次の作品の為にもまだしばらく切る事ができない。 カーテンを開けると日差しが差し込んでくる。そして青い海が広がる。撮影期間の長い一部のキャスト には、オーシャン・ビューの部屋が割り当てられているのだ。 備え付けのコーヒーメーカーからコーヒーをカップに注ぎ、砂糖とミルクを入れて一口飲む。温かい感触 が体中を巡り、ようやく目が覚めたのだと感じた。 「さて・・・今日は何をしよう。」 ブレイドの試合は無いし、特に約束も無い。しばらく顎に手をやりながら考え、たまには一人ぶらっと探索 するのも悪くない、と思い立った。そうして手早く着替え(と、いっても着古したジーンズと半袖のポロシャツというラフなもの)、仕上げにサングラスをかけ、財布と携帯をポケットに突っ込むと、ショーンはホテルを後にした。 少し歩いた所に市場がある。地元の人間も観光客も利用するちょっとしたモールの様な場所だ。スタッフ やキャスト同士でこの並びにある店に食事や飲みに行った事はあったが、日の昇っている時間に歩くのは 今日が初めてだった。 キョロキョロと雑貨や食品の屋台を冷やかしながら歩いていると、トントン、と後ろから肩を叩かれた。 「ハイ!ビーン・ボーイ!!こんなトコで会えるなんて嬉しいなw」 「オーランド!」 振りかえると、にこやかに佇むオーランド・ブルームの姿がそこにあった。 「ショーンは一人?」 「ああ。君もか?珍しいな。」 「まあね、まあ、色々やりたい事があってさ。ね、ビーン・ボーイ、もしよかったら今日は俺と付き合わない?」 そう言って世の女性たちが見たらとろけそうな甘い笑顔を向ける。 オーランドがこういう顔で何かを頼む時は、きっと何かあるのだと経験上知っているので二つ返事でOKした。 「ホント!やったあ!じゃ、早く行こ行こ!」 「っとっと・・お、オーランド、そんな早く歩かないでくれ。逃げたりしないから。・・・ん?」 自分の腕を掴むオーランドの手に目を留める。 「オーリ、その指輪、NZで私が買ってあげた・・・」 「あ!気づいてくれた?そうだよ、NZの露店でショーンに買ってもらったあの指輪だよ。」 「ちゃんと使ってくれてるんだな、嬉しいよ。」 「あったり前じゃん!これはプライベート専用にしてるんだ。仕事とか取材とかPRの時にはゼッタイしていかないの。完全プライベート用。」 そう言って得意げに指輪をチラリと突き出して見せた。鯨の瞳にはまっているエメラルドがキラリとショーンの瞳をみつめる。 「そんなに気に入ってくれたんなら私も嬉しいよ。」 そんな事を話しながら、2人はにぎやかな通りを歩いていった。 「いやー!楽しかったー。」 「たくさん買ったな。コレ、2人で食いきれるかな?」 日が暮れて、眩しいほどの夕陽が沈むのを見届けた後、2人はショーンの部屋に戻ってきた。 たくさん買い込んだ雑貨やら服やら食料品をテーブルの上に置くと、ビール瓶を取り出し、詮を抜く。 「それじゃ、カンパーイ!」 「乾杯。」 カツンと瓶を鳴らして喉を鳴らしながらビールを喉に流し込む。喉を通るその刺激が心地良い。 そして2人は買いこんできた食べ物やつまみを次々と空け、談笑を始める。 撮影の事、サッカーの事、ロンドンの事やこれからの予定、映画の事や演技の話。一通り話す事を話し、ひと段落が着いた所で、ショーンは飲みかけのビール瓶をコトリと置くと膝の上に手を組み、隣に座るオーランドの方を振り向き口を開いた。 「それで、オーランド。少しは気分は晴れたか?」 「え?」 「私に隠し通せると思ったのかい?」 「・・・」 「何か、悩みでもあるんだろう?私でよかったら聞くけれど。・・・解決するかは約束できないがね。ただ、ね。抱え込んでそうやって今日みたいに無理に元気に振舞っている姿を見ると、辛いんだよ。オーリ。」 「あ・・・」 そう言ったショーンのエメラルドの瞳がわずかに曇るのを見たオーランドは急に罪悪感に似た様な気分に陥る。 「そっか。ショーンにはバレてたんだね。かなわないなァ、ビーン・ボーイには・・・」 そう力なく笑うと、オーランドはゆっくりと話し始める。 「実は仕事の事でちょっとハマっちゃってさ・・今の役、パリスだけどね、どうしてもこいつに感情引入できないんだ。脚本を読めば読むほどね。だから、これから撮影が進むけれど、自分で演じてて、コレでいいのかな、って。」 和平が成立したばかりの国の后と恋に落ち、連れ帰り、それが原因で戦争となる。1対1の決闘をするも、死にたくないばかりに卑怯な真似をし、多くの人の前で恥をさらしてしまう。争いは激化し、終いには父や父祖達が築いた国は滅びてしまう。兄や、父や多くの人々の命を犠牲にし、愛する者を探しに乗り込んできた男を物陰から射って殺してしまい、己とその恋人だけはのうのうと生き長らえる・・・どこをどう探してもこの男に共感を得る事はできない。また、この様な役を演じるのが自分の役者としてのキャリアにどんな影響を及ぼすのか・・・・ オーランドが話している間、ショーンはじっと耳を傾けていた。 「現実的な事を考えたら、今から役を降りる、というのは無理な話だね。」 「そりゃ、そうだけど・・・」 「だったら、この役を演じきらなきゃいけない。」 「ま、まあ・・・」 「別にね、共感しなくてもいいと思うんだけどな。」 「え?」 「自分の演じる役に共感する事は大事だけれど、必須ではない。時には共感し難い役を受ける事もあるからね。そういう場合は、なるべく役に近づけるように努力してみればいいんじゃないか?誰だって人殺しはしたくない。でも人殺しを演じなくてはいけなくなったら?その人殺しの事を知る。そいつが何を経験し、何を考え、物事をどう捉えるのかを知り、そうしてどんな行動に出たのか。その辺はちゃんと考えてみたかい?」 「それは・・・そう言われれば、あんまやった事なかったかな?どうしたらパリスに共感できるか、とか、俺にも共通する点はないか、とか、そんな事ばっかやってた気がする。・・・なるほどね。アリガト、ショーン。俺この方法でもう少し考えてみるよ。」 なるほど、と合点がいった様に手を打つオーランド。そんな彼を見ながら、ショーンは顎に手をやり、何かを考えていた。その仕草にオーランドが気づくと、ショーンは口を開く。 「その、私も前から疑問に思っていたんだが、オーランド。どうしてこの役を引き受けた?さっき言ったキャリア云々の話しにも関わってくるけど、その、パリスはあまり好意的に思われる役ではない。いや、だからこそ君みたいな俳優にオファーが来たのかもしれないが・・・」 「へ?いや、それは、その・・・」 途端に視線を逸らし、言い訳を探し始めるオーランド。 「じ、自分への挑戦かな?」 「オーリ。あからさまに動揺してるじゃないか。正直に言ったらどうだ?監督が気になったのか?ブラッドと共演してみたかったのか?それとも、人間の王子がやってみたかった、とか?」 最後のほうは笑いながら、からかう様にオーランドの肩をこづきながら聞いた。 「・・・ショーン。他に理由は思いつかないの?」 「え?」 ショーンはわずかに驚いた。それまで動揺していたオーランドが一転して真剣な眼差しをむけてきたからである。 「他に・・・というと・・・歴史大作だから?」 ぶんぶんとおおげさに首を振るオーランド。 「じゃあ、ストーリーが気にいったから?」 またもやぶんぶん首を振る。 「そ、それじゃあ・・・」 と、グリーンの瞳を困った様に宙に漂わせながら、あれこれ必死に理由を探してみる。 「本ッ当に心当たりないの?」 ずいっとショーンに詰め寄るオーランド。真剣なチョコレート色の瞳が間近に映る。 「す、すまない、オーランド。他に検討がつかないよ。」 その答えに一瞬哀しみの影が瞳に宿る。だが、すぐに苦笑いを浮かべた。 「ふう。ま、期待はしてなかったけどね。」 そんな鈍感な所もとてもいとおしい。謙虚なのか、天然なのか、まあ、両方だろうけど。 「いい、ビーン・ボーイ、よく聞いて。俺が今回のオファーを受けたのは、」 「う、受けたのは?」 一瞬の沈黙の後、オーランドはにこっと笑うとこう答えた。 「ビーン・ボーイと共演できるからさ。」 「what?」 意外な言葉に思わず目を丸くする。 そんな相手の反応を見て、『やっぱり』と肩をすくめるオーランド。 「ちゃんと聞こえた?ビーン・ボーイ。アンタともう一度仕事したいから、このオファーを受けたんだ。」 「わ、私と?そ、その、あ、アレだ。」 「ショーン、あからさまに動揺してるね。ホラ、顔が赤いよ。」 そうからかう様に言うと、ショーンの肩に肘をついて、ぺちぺちと火照った頬を叩いた。 「いや、その、嬉しいのだけれど、なぜだい?」 「もうー、これ以上何をどう説明すればいいのさ。・・・いいかい?ロードオブザリングの撮影は俺にとってサイコーの現場だった。あんなに長い期間、一緒のスタッフとキャストとひとつの作品を作り上げていく事は、まだ新人だった俺にとってホントに楽しかったし、一生に残る経験だと思ってる。ここまではいいかい?」 「ああ。それは私も同感だよ。」 「たくさん友達ができた。今でも連絡取り合ったり、機会があれば一緒に遊びに行ったり。でも、特に俺は、」 そう言うとオーランドがひとつ呼吸をおく。そして、一言。 「アンタが気に入ったんだ。ショーン・ビーン。」 まっすぐショーンを見つめ、自信ありげに答える。 そう、アンタの優しい所や、人の良い所。少し天然が入っている所や、そのグリーンの瞳も、見てる方まで幸せにしてしまう笑顔も。みんな。 だから、あれで終わりにしたくなかった。また、あの時の様な経験がしたかった。 あの時以上の経験は、もうこの先2度とないとは思うけれども。 一方ショーンは何をどう答えていいかわからず、それなのに、どこか照れくさくて、恥ずかしくて、でも目の前の友人に何か言ってあげなくては、と指で口をおさえながら(それは照れ隠しのサインであるとも気づかずに)、言葉を捜していた。 オーランドにはそれだけで十分だった。 「ショーン、コッチ向いて。俺の話を聞いてよ。ロードオブザリングの時みたいに、またアンタと一緒に仕事がしたかったんだ。またこうやってオフの日に遊んだり、一緒に酒飲んだり、悩みを相談したり・・・楽しい思い出を作りたかったんだ。それが、一番の理由だよ。」 そう言ってにっこり微笑む。 「ああ、オーランド。何と言ったらいいかわからないけど、ありがとう。君にそう言ってもらって、嬉しいよ。本当に。・・・その、少し恥ずかしいけどね。」 「何言ってるのさ!いっつも恥ずかしいセリフで人をどぎまぎさせてるクセに。」 「え?私がかい?いつ?どこで?誰に?」 「これだから天然は・・・いっつも!誰にでもだよ。殊、アンタに好意的な人達にはね。」 「そう・・・なのか?」 「まあまあ、深く考えない考えない。それもビーン・ボーイの長所のひとつなんだからさ。さ、悩み告白大会は終わり!悩みは解決したし、俺も言いたい事は言ったし。コレで満足。また明日から撮影に入れるよ。アリガト、ショーン。」 「君が元気になって良かったよ。」 そうして2人は再びビール瓶を手に持ち、乾杯した。 半分ほど残っていたビールを一気に飲み干すと、オーランドはショーンの太腿の辺りにクッションを置き、そこにごろりと寝転んだ。そうしてショーンの身体を抱きしめる。 「んー!ビーン・ボーイ大好き!」 「ありがとう、オーリ。私も君が好きだよ。」 そう言って、黒いくせっ毛を優しくなでる。 「まるで大きな赤ん坊みたいだな。」 「夜泣きが酷くてね。一晩中側にいてくれたら治りそうなんだけど。」 腕を解き、仰向けになる。優しいみどりの瞳がこちらを見ている。大好きな大きな手が、前髪をすいてくれている。 幸せだ。今、自分はとても幸せだ。この人を独り占めしているのだから。 「一晩中こうしてろってのかい?まったく、世話が焼ける息子だな。せめてベッドで寝てくれないかな?このままじゃ私が眠れない。」 「いいよ。じゃ、ベッドまで連れてって。」 よいしょ。と、ショーンはオーランドを抱え、自分が使っているベッドまで運ぶと、静かにオーランドを下ろした。 「・・・おやすみのキスは?」 「おやすみ、オーランド。」 そう言って近づくショーンの顔。 突然オーランドは腕を伸ばし、ショーンの首に絡めると、ぐっと引き寄せた。 「ん・・・!」 身体にかかるその人の重みと共に、柔らかい感触と、そしてビールの味とが唇に伝わる。 薄く、形の良い唇を深く味わうと、多少名残惜しげに腕を放した。 赤面する年上の友人に、ぺろっと舌を出し、ウインクをする。 「オヤスミ、ビーン・ボーイ。」 そう言って素早くタオルケットにくるまると、こちらに背を向け、寝る体勢に入ってしまった。 「・・・・・」 顔を赤らめ、唇を手で押さえながら、ショーンはしばらくオーランドをにらんでいたが、やがてひとつ小さくため息をもらし、自分もベッドに潜り込んだ。 しばらくすると、背中にオーランドが張り付いて来たが、ショーンはそのままにしておいた。 オーランドは大きなその背に安堵しながら、ショーンは暖かなぬくもりを背に感じながら、深い眠りに落ちていく。 ゆっくりと、まどろみながら、オーランドにひとつの確信が頭をよぎっていた。 大丈夫、信じてる。 だって、既に 道は交わっているのだから。 おしまい |
アトガキ アキさまからのリク小説です。お題は花豆でした。 今回はトロイの舞台裏です。オーランドとショーンというメイン級指輪役者が再共演するのに、その辺にはあまり触れられていなかったのが残念というか。 ええと、自分の願望というか、妄想というか。オーランドがパリスみたいな役を引き受けたのは、ショーンと共演できるからだ!だったらいいな、というのを書いてみました。 一応前に書いた『ショッピング』の影もちらっと見せてみました。 最初は、花豆とか言いながら豆花チックになりそうになってしまって(弱気なオーランドを励ますショーン、みたいな)、後半からオーランドがやっと本来の調子を取り戻しました。 こ、こんな感じになってしまいましたが、どうでしょうか? 少しでも気に入ってくれれば幸いでございます。 リクエストありがとうございました!! |