1.王座 「ホラ、ショーン、こっちだ。早く早く。」 「一体こんな格好で何処へ連れて行こうっていうんだ?」 カシャカシャと鎖帷子や剣の音が鳴る。 ボロミアとアラゴルンの格好のまま、ショーンはヴィゴに誘われてスタジオ内を小走りで駆けている。 セットでの撮影を終えたショーンは、さあ着替えよう。という所で友人に声をかけられ、言われるがまま、後をついていたのだ。 「ここだ、着いたよ、ショーン。」 重々しい扉を開けて、ショーンは息をのんだ。 「これは・・・もしかして、ゴンドールの?」 「そう。王座だ。」 2人の前に現れたのは、ゴンドールの城の内部のセット。王座と執政の椅子がある部屋だった。 このセットにアラゴルンとボロミアが居る、という奇妙な絵になる。原作では決してありえないシーンだ。 「これが・・・君の王座だね。そしてこっちが、執政の椅子か。」 「ボロミアも小さい頃、ふざけて座ってたかも。」 「ありえるな。・・・ヴィゴ、もしかして私をこの格好のまま連れてきたのは・・・」 「御名答w」 イタズラっ子の様ににんまり笑うと、ヴィゴは懐からデジカメを取り出した。 「どうしても、この椅子に座る私たちを撮りたくてね。だって、本当ならありえない光景だろう?」 そう言ってショーンを椅子の方へ導いて座らせた。 「いいのかな?こんな事して。」 ボロミアの衣装のままだからであろうか。どうも複雑な心持ちを覚えるショーン。 「悩んだ末の決断だ。何、記念写真だと思えばいいじゃないか。」 そうして執政の椅子に座るショーンをカメラに収める。 そして、部屋の隅にあった椅子を引っ張り出し、その上にカメラを固定させた。自動シャッターにして、ヴィゴはいそいそと王座へ駆け寄ると慎重に腰掛けた。 パシャ シャッター音が鳴る。 ショーンはふと立ち上がり、ヴィゴの方を振り向いた。 そしてしばらく王座に座るアラゴルンを見つめる。 「ショーン、どうした? 言葉が出なくなる程カッコいいか?」 ショーンはその問いかけに答えず、黙ったまま王座に座るヴィゴを見つめていた。 「ショーン?」 つう。 ショーンの緑色の瞳が潤み、一筋の涙が伝った。 「シ、ショーン!?」 慌ててヴィゴは王座から駆け下りると、友人の肩に手を置いて顔を覗きこむ。 「ヘイ、ショーン、どうした?」 ヴィゴに声をかけられ、ショーンはハッとして我に返る。 「や、あの。大丈夫だ。」 「・・・どうして泣いたんだ?」 優しく声をかけながら、頬に伝う涙を指で拭う。 「いや、ボロミアの格好をしてるせいか、王座に座る君の姿を見て、その・・すごく感動したんだよ。この光景はボロミアがさぞ見たかった姿だと思うと・・・でも、本当は見ることができなくて、だから、一層・・・」 再び涙が流れる。 そんな友人をヴィゴはそっと抱きしめた。 アラゴルン、あんたは実に惜しい友人を亡くしたものだ。心から同情するよ。 せめて私は、後悔なんかしない為に。大切な人の手を離さない様、無くさない様、努めていこう。
2.キッズ
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3.南十字座 |
4.トールキン |
5.朝 |
6.アンダーシャツ |
7.ビールを買いに |
8.フィンガーペインティング |
9.コーヒー&フットボール |
10.離別
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あとがき 1:自分でもこのネタはどうかと思ったんですけどね。 でも書いちゃいました。役に入り込みすぎて、ボロミアの心情になってしまったショーン。 そんな役者根性のショーンが好きで、それで泣けてしまう気の優しいショーンが好きな藻っさん。 |