1.kiss me. ピンポーン ある日、オーランドのレンタハウスに、チャイムが鳴り響く。急いでドアを開けるとそこには、 「ハイ、オーランド。」 「ビーン・ボーイ!?」 共演者のショーン・ビーンがいた。いつも通り笑顔をたたえながら。 「ワーオ、いらっしゃい!ビーン・ボーイ!どうしたのさ?いきなり尋ねてくるなんて。ま、あがってよ。」 「ああ、おじゃまするよ。」 リビングに入り、ソファに座る。オーランドはいそいそとジンジャー・エールの壜を持ってきた。 「ありがとう。」 「それで、今日はどうしたの?連絡無しに来るなんてさ。」 ショーンは幾分照れくさそうに頭をかく。それが恥ずかしがっている証拠であることを知らないのは本人だけだ。 「いや、その、この間一緒にヘリに乗っただろ?撮影の時。」 「ああ、あれね。可愛かったよ、ショーン♪」 「・・・まあ、何だかんだ言ったり言われたりしたが、励まされて助かったよ。それで、何かお礼を、と思って。今何か欲しい物はあるかい?」 それを聞いた途端、オーランドはソファの上で飛びはねて喜ぶ。 「エ!マジ!?いいの!?」 「ああ、いいとも。・・・あまり高価なものは困るが。」 しばらく何やら考え込んだ後、オーランドはにやり、と笑った。 「おっけ!思いついた。ショーン、ちょっと耳貸して。」 ちょいちょいと手招きする。 「?何だい?」 ショーンが顔を近づけると、オーランドはその耳に口元を寄せ、目を細めながら囁いた。 「Kiss me, Sean.」 「What!?」 言うが早いか、オーランドは油断しまくりのショーンを押し倒すと、思いっきり唇を重ねる。 「んんんん!?」 突然の事で何が何やらわからず、されるがままの強面英国人俳優。 「ぷはっ」 ようやく顔を上げると、オーランドはショーンの顔を見下ろしながら、屈託の無い笑顔を浮かべて ペロリ、と唇を舐める。 「お礼完了♪ありがと!ショーン。」 何も言えないショーンは、顔を真っ赤にしながら、ただただ、年下の美麗な共演者を見上げていた。
2.コインを投げて決めようぜ。 | ヴゥ−−・・・・ン 広大なニュージーランドの大地に遠慮がちに佇んでいる、長く、どこまでも伸びている道。 そこを土煙をたなびかせながら進んでいく一台の車。 じりじりと照りつける太陽にも負けず、その先へその先へ進んでいく。 運転席には陽光に負けないほどのブロンド・ヘアと惹き付けられる様なエメラルド・グリーンの瞳の男。 一方、助手席でサングラスをかけながらビール缶を片手にしている彫りの深い顔と、吸い込まれそうな黒い瞳の男 ちらちらと隣のブロンドを気にしながら、談笑をしているようだ。 ブロンドの方は飲みかけのビール缶を気にしながら(さすがに飲酒運転はできない)、にこにことよく笑いながらハンドルをきっている。 「ん?道が分かれてるな。」 「そうみたいだな。えっと、地図地図・・・」 車を止め、サイドブレーキをかけるとがさごそと辺りをかき回し始める。そんな彼の背中をトントン、と叩く。 振り返ると、間近に映るふたつのみどり。 「どうした?」 「これこれ、」 そう言うと、サングラスを外して、にやり と微笑む。彼の手にはコインが1枚、乗っていた。 「地図なんていらないさ。このコインを投げて決めようぜ。」 「ああ、それも面白そうだな。やってみよう。」 こちらも にこり と口元を緩める。 ピーン コインが緑と黒の視線に挟まれながら宙を飛ぶ。 「よし!コッチだ。」 「ああ。何があるんだろうな。」 「アンタとならバッファローの大群が来ても平気さ。」 「・・・この国にバッファローはいないだろ。まあ、でも、君がいれば砂漠でガス欠になっても怖くないかな。」 「・・・ヘイ。それはさすがにシャレにならないぜ。」
3.Happy birthday! |
4.目を閉じて。 | 「あの、ショーン?」 トレーラーに訪れていたデヴィット・ウェナムが幾分恐縮気味に話しかける。 「うん?どうした?デヴィット。」 「その、ちょっと言いにくいんですが、片目をつぶってもらえますか?」 ショーンは驚いて眼を丸くした。目の前のマジメな友人がいきなり片目をつぶれと、意味不明な事を言い出したのだから。しかし、デヴィットの事だからビリーやドムの様に何かイタズラを仕掛けるとは思えない。 「こ、こうかい?」 ショーンが左目を閉じると、デヴィットは手鏡を取り出した。そこに映ったものは、 「あ、な、何だ?こりゃ?」 「・・・・」 左のまぶたに、黒のペンで目が描かれていたのだ。まるで子供の落書きの様なタッチで。 慌てて今度は右目を閉じると、やはりそのまぶたに目が描かれていた。 「で、デヴィット、これは?」 「ショーン、あなた仮眠を取ってませんでしたか?」 「あ、ああ。マッサージをしてもらった後だったから、つい気持ちよくて。その時か!?」 「ええ。その、ドミニクとビリーが何やらはしゃぎながらあなたのトレーラーから出てきたものだから。」 「っ・・・・またあの2人か。油断した。」 口調とはうらはらにどこか微笑を含んだ困り顔。 そんな顔を見て、この人は皆から愛されているのだなあ、と思う。 「ショーン、目を閉じて。」 「え?」 「多分化粧用の鉛筆ですよ。拭けば落ちます。」 そう言ってデヴィットはメイク落とし用のウェットティッシュを出した。 「ああ、ありがとう。」 そう言ってショーンは両目を閉じると、少し顎を上向きにする。 「・・・・」 あまりにも無防備でそれでいてどこか魅惑的なその人の顔に、動悸が少しばかり速くなる。 わずかに開かれたその唇を見つめ、デヴィットは苦笑いを漏らす。 「・・・キスを待っているお姫様みたいですよ。」 「え!?」 「冗談です。ホラ、拭きますよ。」 「あ、ああ。」 ほんのわずかだけれど、熱を持ったその人の頬を優しく押さえながら、デヴィットはゆっくりとまぶたを拭き始めた。
5.終わりにしよう。 | 「はぁ、はぁ、・・・・」 「何、ビーン・ボーイ、もう疲れたの?だらしないなあ。」 「仕方ないだろ、君と違って若くないんだ。夜も遅いし、もう終わりにしよう?」 「えー、ヤダよ。俺、まだまだイケるよ?」 「私の身が持たない。」 「えー・・・」 小さな子供のように口を ぶう とふくらまし、ささやかな抵抗を試みる。 「・・・続きはまた今度な。」 「ホント!?絶対?約束だよ!!」 「わかったわかった。約束だ。」 その答えに満足して、オーランドはテーブルの上のカードを片付け始めた。 「しかし、オーランド。ブラックジャックで2回負けたら腕立て10回、というのは少しキツくないか?せめて腹筋10回とか・・・」 「なーに言ってんのさ!やりたくない事だからバツゲームになるんだよ。遊びながらワークアウトできると思えばいいじゃない。」 「うーん・・・」 「それじゃ、俺部屋に帰るよ!明日の撮影もがんばろうね!」 「ああ、おやすみ、オーリ。」 「おやすみー、ビーン・ボーイ。」
6.Action! | 「しかし、君らはまるでホビットの様だね。役柄そのままだよ。」 「そう?そんなに僕ら天真爛漫に見える?」 「ホビットみたいにキュートってコトでしょ?ありがと、ビーン・ボーイw」 しゃあしゃあと言ってのける共演者に思わず微笑してしまう。 ショーンとビリーとドミニクは、花壇の手入れをしていた。例の車を突っ込んだ一件で、ショーンが手塩にかけた花壇は半壊してしまった。せめてもの罪滅ぼし、という事で2人は花壇の修理を手伝っていたのである。 「我ながら適役と思ってるよ。ねえ、ドム。」 「そうだなあ、たまにホビットなのか自分たちなのか境界がわからなくなる時があるよ。」 「ふふ、キミたちらしいな。」 「ビーン・ボーイは、ガチンコが鳴る前と後じゃエライ違いだよね。」 「そうか?どうも、監督の『Action!』って掛け声がかかるとね、魔法にかかった様にスッとボロミアになる事ができるんだよ。」 「そっかー。PJはホビットじゃなくて魔法使いだったんだね。」 「通りで人間離れしてると思った。」 3人は顔を見合わせると声をあげて笑った。 よく晴れた日の午後だった。
7.Yes. | 「なあ、ショーン?」 ヴィゴの顔が目前まで近づいてくる。 その黒い瞳と、私を呼ぶ声に、私が弱いというのを知りながら。逆らえないのを知りながら。 「・・・・」 柔らかな感触が唇に当たる。 私もそれに応えてしまう。 「・・・それは、肯定の意味ととっていいのかな?」 顔を離して、優しく微笑む彼。 「・・・…」 「?聞こえないよ、ショーン。ちゃんと聞こえるように言ってくれよ。」 顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。 「・・・yes.」 それを聞くと、ヴィゴの顔がキラリと輝く。そして極上の微笑みを私だけに、向けてくれる。 「Thank you Sean.」 そう言って、彼はまたキスをして、今度は体まで押し付けてくる。 今更それを跳ね除ける気もないので、重力に従って私たちの体は柔らかなスプリングへ とすん、と倒れた。 カチッ サイドテーブルの明かりが落ち、辺りが闇に包まれる。
8.死んでもいやだ。 | 「ねえ、ビーン・ボーイ、ちょっとでいいんだ。こっち向いてよ。」 「・・・いやだ。」 普段とは幾分トーンの低い声で(そして幾分震えた声で)彼は答えた。 「だってさ、こんなに景色がいいんだよ。」 「・・・それはわかってる。」 「もしかしたらさ、案外平気かもしれないよ。」 「そんなわけないだろ。」 「もー、強情だなー、北のオヤジさんはー。」 ぶー、と頬を膨らませて、美形のエルフ、の格好をしているオーランドがつぶやいた。 その膝に高所恐怖症の英国人俳優を乗せて。 2人はカラズラスの撮影の為、山頂までヘリで移動中であった。 空から見るニュージーランドの景色と言ったら、言葉では言い表せないほどに美しく、雄大である。 せっかく憧れの人と、この景色を堪能しようとしているのに、肝心のその人はひとまわりも年下の若手俳優のひざの上で、外が見えないようにぶるぶると震えているのだ。 (これはこれでオイシイシチェーションなんだけどね。) 膝の上の茶色い髪(カツラだけれど)を撫でながら、オーランドは今一度、その人に呼びかけた。 「ね、ショーン、ひと目だけでも!」 「死んでもいやだ!」
9.Bastard! | 今、とても後悔している。どうして自分は初めから撮影に参加できなかったのだろう。 この人と話す機会はいくらでもあったろうに。せっかく兄弟という役を演じるのに。あなたに似ているから、という理由でこの作品に参加できたのに。私が来た時、あなたはもうそこにはいなかった。 「Bastard!!」 普段なら使う事のない言葉を口走ってしまう。でも、許してほしい。今、本当に悔しいのだから。 あなたと今日初めて会って、あなたという人のすばらしさを知ってしまったから。 その笑顔を毎日拝んでいた他の仲間がうらやましい。 気持ちを落ち着かせるため、デヴィットはレストルームで顔を洗う。 「デヴィット?大丈夫かい?」 鏡にさっきまで想っていた人が現れた。緑色の眼が印象的な人。 「なかなか帰ってこなかったからちょっと心配になってね。飲みすぎたのか?」 「いや、ちょっと・・・その、飲みすぎたらしい。でも、もう大丈夫。ありがとう。」 「そうか。実はさっき監督から話があってね、TTTの追加撮影にボロミアとファラミアとデネソールが登場するシーンを撮るらしいんだ。」 「え!本当に!?」 「私も何度も確認したよ。詳しい日程がわかったら知らせるから、それまで太らないで待っててほしいって。」 そう言ってショーンは微笑んだ。 「兄弟そろって登場できるなんて、原作にはなかったシーンだ。嬉しいよ。」 「私も嬉しいな。あなたと一緒に仕事ができるなんて。今から撮影が楽しみだ。その時はどうぞヨロシク。」 すっと手を差し出すデヴィット。 「こちらこそ。私も楽しみにしているよ。」 がっちりと手を握るショーン。 兄弟役を演じる俳優2人は、ほんものさながらに笑みを交わした。
10.I love you. | 「じゃ、一番最初に、ショーンに”I love you.”って言わせた人が勝ちね!」 「勝った者が、次のオフの日にショーンとデートできる。それでいいな?」 「わ、わかりました。」 「それでかまいません。」 明日を週末に控えたNZランド。の、ロードオブザリングの撮影現場。の、ここはヴィゴのトレーラー。 今ここにトレーラーの主の他、共演者である3人の男優が集まっている。男優が計4人。 週末デートを賭けたゲームが今、火蓋を切った。 「ねえ、ビーン・ボーイ。」 「何だい?オーリ。」 「俺の事愛してる?」 「ぶっ」 思わず飲みかけのミネラルウォーターを吐き出してしまった。そのままごほごほと咳き込む。 「俺はビーン・ボーイのコト、愛してるよ。だから、ビーン・ボーイも愛してるって言って!ね?」 そう言うと、おねだり笑顔を浮かべ、レゴラスの衣装のまま、ボロミアの衣装のショーンの膝の上に乗ってくる。 「は、な、何を突然言い出すんだ?」 「そうだよ、オーランド。ホラ、ショーンが重そうにしてる。」 後ろからぬっと表れたカール・アーバンが、オーランドをひょいと抱え、膝の上から下ろす。 「それはそうと、ショーン。実は俺、次の映画が決まったんです。」 「へえ!ホントかい!?それは良かった!おめでとう!!」 満面の笑顔のショーンと握手をすると、それだけで最早当初の目的を忘れてしまいそうになるカール。 「あ、あの、ぼ、僕、いや、俺、アナタを・・・」 ガシッ 少し混乱気味のカールの肩に、手が置かれた。振り返ると、笑っていない笑顔のデヴィットがいた。 その顔と『あなたはもう下がっていなさい。』というオーラに思わず気圧される。・・・経験の差がここに表れた。 「カール、向こうで監督が呼んでいたよ。乗馬のシーンの打ち合わせをしたいって。」 「は・・・はい。」 ヘビに睨まれたカエルの様に、すごすごと足取り重く歩いていく。 「所で、ショーン。実はちょっと相談が。」 「相談?何だい?私でよかったら力になるよ。」 「ええ。実は、ファラミアとエオウィンのラブシーンを入れる、と先日監督から言われました。」 「ああ、城壁で告白するあの場面かい?」 「そうなんです。それで、ひとつ参考までに、”I love you.”と言ってもらえませんか?」 「私が?」 「どうも、このテのセリフを言うのは苦手なんですよ。なので参考までに、お願いします。」 「ズルイ!」と言いかけたオーランドにマントを翻して黙らせる。 「I love you.」 「ヴィゴ。」 「ラブシーンの相談なら私にもしてくれよ。この映画でラブシーンを撮れるキャラは限られているんだから。水くさいぞ、デヴィット。」 ショーンの肩に手を置き、ヴィゴが現れた。ヴィゴはショーンの両手を使掴むと、椅子から立たせ、顔をぐっと近づけた。 「ショーン、単刀直入に言うぞ、理由を聞かずにたった一言、”I love you.”と言ってくれ、頼む!」 「ヴィゴ!ずるいぞ!ショーン!!口が裂けてもそんな事言っちゃだめだよ!!」 「近すぎます!!もっと離れてください!!」 「デヴィット!ヒドイじゃないか!監督は呼んだ覚えは無いって、ああ!何やってるんですか!?」 「な、なん何だ!?」 一気に場が混乱し、互いに押し合いへし合いとなった。 RRRRRRR RRRRRRR 携帯が鳴った。 「もしもし?ショーン・ビーン・・・ああ、イライジャ。・・・ああ、大丈夫だよ。どうした?」 (ビーン・ボーイ?よかった、やっと繋がった。どうした訳か知らないけど、ヴィゴもオーランドも電話出てくれないんだもん。) 「皆ここにいるぞ。・・・携帯は持ち合わせていないみたいだがね。」 (今話してたんだけど、ドムが家からビールを送ってもらったんだ。で、僕も家からワインやらチーズやら送ってもらってさ、で、せっかくだから皆で宴会しないか、って話になったんだ。) 「それはステキだね。私も何か持って行くよ。」 (やった!ホント?ありがと!じゃ、次のオフの日にショーン・・・サムの方ね、の家でやるからって、皆にも伝えておいて。) 「わかった。伝えておくよ。楽しみだな。」 (僕も今から楽しみだよ!それじゃ、そっちもがんばってね!I love you, Bean-boy!) 「ああ、I love you too, Elijah.君らもがんばって。」 『AHHHHH!!』 落胆の声が上がる。 勝負は思わぬ伏兵・イライジャ・ウッドの勝ち、となった。・・・・最も、本人達はその事を知らないけれど。 |
あとがき 1.藻さんだけにおいしい思いをさせるのもなんでしたから、オーリにも。 2.NZランド滞在中、この2人旅行に行ったんですよね?確か。 4.公豆は、そのままファラボロになってしまいそうな感じです。口では冷静な事言ってますが、理性が必死に働いているんですよ。 5.トランプで遊ぶ豆と花w 6.ええ、たまにはメンツを変えないと。 7.この続きは、あなたの夢の中で・・・ ・・・やっとお許しが出たようです。(笑) 8.またやっちゃいました。ヘリコプターネタ。ちょっと物足りないですが、オーリの膝の上でガクガクブルブルしている豆氏を脳内で思い浮かべて御堪能下さい。 9.BASTARD!って、たまに映画で出てくる言い回しですが、ようするに「クソッタレ!」ってことですかね。こともあろうか、ハムさんに言わせてしまいました。いやー、本当に兄弟一緒に映るシーンがあってよかった〜w 10.久しぶりにオールキャラっぽい話です。ちょっと無理に縮めすぎた気も。・・・最初は、最後に勝ったのはお嬢ちゃんにしてたんですよ。 |