feel at home, with you.



 『カーット!!・・・今日はこれでお終いだな。皆ご苦労様、明日もがんばろう。』

 マイケル・ベイ監督の声がスタジオに響く。
 現在、彼は最新作、『アイランド』の撮影真っ最中であった。
 制作費1億2千万ドルをかけたクローンがテーマの近未来SF大作である。
 主役にユアン・マクレガー、ヒロインにスカーレット・ヨハンソン、その脇をスティーブ・ブシェミ、ジャイモン・フンスー、マイケル・クラーク・ダンカンらが固めている。 
 そして、違法にクローン達を創り出している組織の社長を演じているのが、最近ハリウッドでも引っ張りだこの英国人俳優、ショーン・ビーン。
 この日の撮影が終わり、ショーンがメイクを落とし、控え室で着替えをしていると、扉がノックされた。
 ショーンは姿を見るまでもなく、このノックの主の検討がついた。

「ユアンかい?どうぞ。」
 ガチャリ、と扉から入ってきたのはこの映画の主役、ユアン・マクレガーその人であった。
「ハイ、ショーン。お疲れさん。どうだい?今から飲みに行かないか?・・・って、その前にどうしてオレだってわかった?」
「しょっちゅう君のノックを聞いているからね。叩き方で君だとわかるようになったよ。」
「へえ〜♪ソイツは光栄だね。そういや、撮影が一緒の時は大抵尋ねていたような・・・まあ、いいや。で、返事は?」
「もちろんOKだよ。ちょっと待っててくれ。」
「了解ー。」
 そう言ってユアンは近くの椅子に腰掛けると携帯を取り出し、何やらメールを打ち始めた。
 ショーンは手早く着替え、サイフと携帯をポケットに突っ込む。
「お待たせ、行こうか。」
「早くビールにありつきたいよ。」
 そうして2人は肩を並べながら歩き出した。

 撮影が始まってすぐに2人は友人になった。
 作品のメインを演じるのもそうだが、同じイギリス出身(北部寄り)でハリウッドでも活躍する俳優、という共通点もあったせいか、それとも性格的に相性がよかったのだろうか。とにかく、撮影中やオフの日なども一緒に過ごす事が多かった。
 役柄上、撮影ではアメリカ英語を話す2人も、プライベートではイギリスの北部訛りの英語でしゃべりまくる。同じ英語圏なのに、アメリカ人ですらちょっと聞き取りづらい程だ。酒が入ると尚更。両者とも強いか弱いかは別として、大の酒好きである。ブリティッシュ・パブでビールを飲みながら母国の訛りでローカルネタやサッカー話や映画の話を楽しむのがオフの日のお決まりメニューとなっていた。

「「Cheers!」」

 ガチン とジョッキを鳴らすと、二人は一気にビールを飲み干した。その清々しい顔といったら。彼らのファンやカメラマンが欲しくて止まない程の笑顔だった。
 2杯目を注文し、2人はその後も飲みながらとりとめもない会話を楽しむ。
 そろそろほろ酔い気味になった2人。ユアンがふと思い出したように尋ねた。

「そうだ、ショーン、アンタ確か腕にタトゥーしてたよな?」
「ああ、してるよ。二つ入れている。」
「一つがブレイドで、もう一つが・・・ロードオブザリングの撮影記念のヤツだっけ。」
「まあ、そんなトコだ。キャストの皆で彫ったんだ。」
「見せてくんない?」
「・・・しょうがないな。特別だぞ。・・・ドッチを見たい?」
「両方♪」
 普段は軽々しく見せる事はないのだが、少し酔っていたのと、相手が心知れた友人だったからであろう。ショーンはするりとシャツの袖をまくった。その年にしてはがっしりとした腕。左右の二の腕の辺りに刺青が施されていた。左腕には『100%BLADE』、右腕には想い出深い作品の記念に彫った、エルフ語で『9』を意味する数字。改めてそれを見ると、楽しくて懐かしいNZでの日々が頭をよぎった。
 ユアンは『へ〜鍛えてあるんだね』と言いながらぺしぺしとショーンの腕を触りまくる。刺青の所で今度はゆっくりとなぞるように指を這わせた。
「わ、ちょっと、くすぐったいよ、ユアン。」
「ああ、ゴメンゴメン。って、ショーン、結構感じやすいタイプ?」
 丁度イタズラっ子が相手の弱点を見つけて喜ぶような目つきでユアンがにやりと笑う。
「コラ、年寄りをからかうな。」
 動揺を隠すように(顔がビールのせいで既に赤くなっていたのは幸いだった)口をわざとらしくへの字にして、ユアンの額を指ではじいた。
「イテ、これが年寄りの腕かよ。ガッチリしてるじゃないか。さすがだね、格闘シーンでは気をつけよう。」
「お互いにな。万が一君の顔にパンチでもしたら、娘に叱られる。」
「娘さん?」
「オビ=ワンのファンらしい。」
「それは嬉しいね。 I wish, may the force be with your daughters.」
「ワオ、あのセリフがナマで聞けるとは。」

 あまりにも有名な作品の有名なその言葉(しかも本人から)にショーンは喜んだ。
 酔いのせいでほんのり赤く染まった頬に笑いじわが寄る。撮影中は気づかなかったけれども、淡くてやさしいグリーン・アイズが今夜はやけにその存在を主張しているように思えた。

「・・・記念のタトゥーを見せてくれたお礼だよ。でも記念のタトゥーってのがイカシてるね。クールだ。」
 そう言うとユアンはエルフ語のタトゥーの方を触り始める。
「・・・俺も何か残そうかな。」
「何をだい?」
「せめて今夜の記念に・・・・と、言う訳で!」
 言うが早いかユアンはショーンの腕に噛み付いた。もとい、吸い付いた。
「!!??」
 唇をタトゥーの下辺りに付けると、キスよろしく思い切り吸い付いたのである。
「え?あ、ゆ、ユアン!?」
 突然の事で何が何やらわからないショーン。シー・グリーンの瞳をぱちくりさせながら腕に吸い付く友人の肩をつかむ。
「ぷは!」
 ようやく離れたその唇。ショーンの腕にはくっきりと赤い跡が残っていた。広い意味でキスマーク、と呼べる物だろう。
 ひと仕事やってのけたユアンは戸惑う友人の顔をみて満足そうに笑うとビールを飲む。
「どうした?ショーン、そんなに気持ちよかった?俺のキス。」
「どうかしたのは君の方だよ。何なんだ?今のは。」
「何ってショーン、」
 そう言うとユアンは楽しげに、そしていとおしげにショーンの肩に手を回した。
「共演記念のシルシだよ。タトゥーを入れるには時間がないし、とりあえずコレにしてみた。」
「というか、記念も何も私だけが印をつけてどうするんだ?」

 おいおい、ツッコむ所はソコかい?
 どうしてキスマークなのか?とかどうして印を残したい?とかソッチが先じゃないのか?
 まったく、この人は。俺より年上のハズなのに。どうしてこうも。

「・・・カワイイなあ。」
「!?」
「じゃあ、ショーン。ショーンが俺に付けてくれるのかい?シルシ。」
 トントン、と自分の首筋を指で叩くユアン。
「は!な、何を言うんだ!?」
 赤い顔を更に赤くしながらオロオロするショーン。
「アッハハハハ!!ショーン、アンタやっぱステキだよ!ホント、いいヤツだ!!ん〜♪」
 バシバシとショーンの肩を叩きながら、素早くその頬に口付ける。
 ほのかな熱が頬から唇に伝わった。

 ガツン!
 突然、笑いまくるユアンの額にショーンの頭が衝突した。
「痛ェ!!」
 両手で額を押さえるユアン。その白い額はほんのりと赤くなっていた。
「ホラ、お望みどおりつけてやったぞ、シルシってやつを。」
 そんな様子をみて意地悪く笑うショーン。 
「ヒッデー!!アンタ今メリック並に意地悪い笑い方したぞ。」
「それはそうだろう。意地悪く笑ったんだからな。」
 そう言うとグビっとビールをあおるショーン。
 ぶう、と頬を膨らませて恨めしそうに、それでもどこか愛らしい顔で睨んでくる友人にジョッキを差し出す。  その仕草を見て、頬から空気を出し、飲みかけのジョッキを掴むと、片方の口の端を持ち上げにやりと笑うユアン。
 そして2人は ガチン とジョッキを合わせた。

 楽しい。
 気兼ねなく、臆することなく、遠慮する事も無しに、タダの悪ガキだった自分に戻れる。
 ふざけて、笑って、じゃれあって。
 共演者だから?同じ英国人だから?違う、そうじゃない。きっと、
 アンタという人だからできるワザなんだろう。
 タトゥーを彫ろうとは言わない。けど、

「楽しいなあ。アンタと飲んでるとホント、愉快だよ、ショーン。」
「私もだよ。君と飲んでいると悪ガキだった頃の自分にもどったみたいだ。」
「ソイツは光栄だね。じゃ、また飲みに来ようか。」
「もちろん。」

 あせることの無い想い出を。心に刻みつけておきたい。

「じゃ、約束の杯だ。」
「ああ、約束だ。」

 ひとつでも多く、深く。

「「カンパーイ!!」」

 本日3度目の乾杯の音が、にぎやかな店内で、楽しげに響いた。



                                                             おしまい 

アトガキ
 か、書いちゃった。湯案・豆。
 しかも映画本編ネタより先行してRPSを書いちゃうってどうでしょう。
 まあ、それはともかく後半スラスラと筆が(指が)進みました。もう、節操無しと呼ばれても仕方ないですね・・・豆の新作が出る度に共演者絡みのRPS書くようになってしま・・・ってないですね。国宝書いてないです。というか国宝もライリー・イアンもっと書きたいのですが時間が無く、そうこうしている内にさらに好き作品が出てきてますます書くヒマが・・・!!
 ともあれ、湯・豆です。何となく、英国俳優繋がり、という事で書いてみました。
 北部(ロンドンより上はみな北部、というイメージが)の英国人といえば酒が好き、サッカーが好き、バカ騒ぎが好き、というのが私の勝手なイメージです。
 湯が腕にキスしちゃったのも、酒のせいが半分。後の半分は豆が可愛かったからです。ええ。あの46歳にして花畑がアレだけ似合う人も珍しいかと。

 すべては酒のせいね。

 とまあ、こんなカンジでしたがどうだったでしょうか?ホントは腕じゃなくて首にキスマーク残す、という案もあったのですが、湯豆第一弾でそこまでしたら後のネタが続かないって、2作目以降も書くつもりみたいです・・・その前に血豆を書きたい・・・リンカーン・メリックも書きたい・・・そうこうしてたら今度はきっとフライトプランが始まっちゃうんだ。きっと・・・あうー