Movi'n hearts : Day-Final


 英国の空の玄関、ヒースロー空港。
 ファーストクラス専用の待合室に二人は座っていた。いよいよブラッドが英国を発つのである。

「いやあ、ショーンのおかげで充実した休暇を過ごせたよ。」
「こちらこそ楽しかった。また機会があったら来てほしい。」
「…なぁ、」
「うん?」
「誰にでもそういう風に言うのか?」
「え?」

 驚いて緑の瞳を丸く見開くショーン。質問の意味する所を量りかねて言葉に詰まる。

「いや、すまない。気にしないでくれ。」
 ただの子供っぽいひがみだ。あんたを困らせようなんて思ったわけじゃない。
「気にするさ。」
「・・・」
 眉間に小さな皺を寄せ、幾分憮然とした顔のショーン。その顔を見て、感情に任せて迂闊な事を言ってしまったと後悔する。
「互いにこういう職業だから、また会う事は難しいと思うけれど、適当な気持ちで言ったわけじゃない。」
「…わかってるよ。俺が悪かった。つまらない事を聞いたよ。」
 申し訳無さそうに詫びると、間を取る様にテーブルに乗っているもう幾分冷めてしまった紅茶を一口流し込んだ。

「正直言うと、ちょっとだけ寂しかったんだ。帰るのがね。子供じみてるだろ?それが恥ずかしくて、つい・・・許してくれる?」
 最後の方は下から見上げる様に、若干子供っぽい口調で付け加える。
「…私が No と言うとでも?」
「思ってなかった。だって、友達だろう?」
 そうにこやかに(しゃあしゃあと)言うと、ブラッドは手を差し伸べた。
「まったく、確信犯か。手に負えない友人だな、君は。」
「偶然だな、皆そう言うんだ。」
 がっしりと握手を交わすと、笑みを浮かべた。


「ふう。まさかケンカ別れになるのかってヒヤヒヤしたよ。」
「私もだ。」
「ま、終わりよければ〜ってヤツだ。楽しい旅だった。改めて礼を言うよ、ショーン。」
「どう致しまして。今度はもっと田舎の方を案内するよ。春頃が丁度良い季節なんだが…私もその頃は仕事だしなあ。」
「忙しい事は悪い事じゃないが、時と場合によりけりだ。またあんたに会える事を励みにがんばるさ。」
 和やかな雰囲気の中、出発の時間まで二人は雑談を楽しんだ。

 時間がままならないのは時にもどかしい。だけど、ままならないからこそ、限られた時間の大切さがわかる。
 その限られた時間の価値がわかる友がいる事はとても嬉しい。
 華々しく見える世界だが、その実、暗い部分や汚い面も兼ね備えている。そんな世界に身をやつす者同士、 時には泣いたり笑ったりできる事はとてもありがたい。

「ん、ブラッド、そろそろ時間みたいだ。アナウンスが。」
「なんだ、もう出発か。」
 時計に目をやり、わずかな手荷物とチケットを持つと二人は立ち上がる。
「それじゃあ、ブラッド。また会おう。」
「ああ、ショーン。俺はまた来ると言ったら本当に来るからな。」
「大歓迎さ。」
 そう言うとどちらからともなくハグをする。
 体を離そうとするショーンをブラッドが腕に力を込めてそれを抑えた。

「ブラッド?」
「…あったかいな。」
 ショーンの肩に顔を埋めながら、ブラッドは呟く。
 やがてくるりと顔だけ向きを変えると、目の前にあるショーンの首筋に吸い付いた。
「うわっ!!」
「んんんーーーーっっと。こんなもんか。」
 イタズラを成功させた子供の様に、ある種の達成感を顔に浮かべ、ぺろりと唇を舐めた。
「ブ・ブ・ブラッド!?」
「何だい?ショーン。別れのキス位どってコト無いだろ?」
「別れのキスって、何でこんな所に!」
 赤い跡がくっきりと見える首筋(もちろん服では隠せない位置だ)を押さえながら抗議をするショーン。
「何?首じゃなくて口がヨカッタ?」
 意地悪そうに目を細めながらぐいと顔を近づけるブラッド。

「・・・・・っ」
「え?」

 からかい半分でいたブラッドの眼前に、普段よりも鋭い緑色の瞳が迫ったかと思うと、シャツの襟を掴まれた感覚と同時に 唇の端に一瞬柔らかなものが押し付けられた。
 思いもよらなかった突然の反撃に、何が起こったのかわからず呆気に取られるブラッド。
 その様子を満足気に見ながら、少しばかり悪役な趣を出しながらショーンが笑う。

「ホラ、早くしないと乗り遅れるぞ。」
 何度かスクリーンの中で観た覚えのある『悪役の冷笑』を浮かべ、待合室のドアを開けながらブラッドを促すショーン。
 その冷たくも美しい顔にぞくっと身を震わせるブラッド。

「このギャップもたまらんね。」
「何か言ったか?」
「いいや、何にも。情熱的な別れのキスをありがとう、my friend .」
「どう致しまして。」

 そうして互いににっこりと笑うと、二人は並んで部屋を後にした。
 

                                                             おわり 



あとがき
 血豆ロンドン滞在記・最終日。
 これで終わりですー!!かれこれ一年以上かかったんですが、これにて完結です。いかがでしたでしょうか。
 一応初めてのシリーズものなので、無事に終われてよかったです。最初は何気ない読みきりネタのひとつだったのに(笑)
 しかし、この二人また共演してくれませんかねーーー!!ヴィゴでもオーリでもいいですよ!!
 どうも『アイランド』以降、豆萌えが足りない気が。
 確かに『静岡』の豆もきゃわゆかったのですが、何か、こう、トロイや指輪の様に相手がいた方が・・・!!!

 来年はハムレットやらワイルドやらで文学系の作品が多そうな豆ですが、日本でも公開してくれるかな?
 とにかく!!豆を!!スクリーンに豆を下さい!!
 OH!MAME−−−!!
   
                                                             061225