「いやー、よかったよかった。」 「ああ。思ったより早く決まったよ。これもアンタのおかげだ。」 ロンドンの街中にあるバーで酒を酌み交わすショーンとブラッド。 理想の物件を探し初めて3日めの今日。とうとう彼のお目にかなう物件をみつけたのである。そこそこ年代モノの建物で、昔どこぞの貿易商が使っていたという屋敷を手ごろな値段で買い付けた。 「運が良かったのさ。それに、色々改造するんだろ?」 「それは自分でゆっくりやるさ。」 2人とも既にほろ酔いで、うっすらと頬を染めながらビールを次々と空けていく。 「所で、次の仕事は決まってるのか?」 「ああ。ホラー映画に出るんだ。日本のビデオゲームが元になってるらしい。」 「アンタがホラー?」 「何だよ。悪いか?」 「いや、悪くは無いが、ちょっと意外だなあ、と思って。」 「そうか?最近は色んな役のオファーが来るから、色々チャレンジしてるんだ。」 「ホラーといえば、ヴァンパイアを演じた事があるよ。」 そう言ってブラッドはふざけてカーっと口を開けてみせる。 「知ってる。トム・クルーズと共演してたヤツだろ。ホラーはホラーでも、私は人間の役だよ。ちなみに主役は女優だ。」 「ホラーと言えば、主演は女優って相場が決まってるからな。・・・アメリカにロケとかに来る?」 「かもな。詳しくはわからないが。」 「来る時は連絡してくれよ。ウチへ招待するから。」 「それは楽しみだ。」 旅の目的である家を見つけたというのに、ブラッドは何故か気分が晴れなかった。 今頃時差ボケしたのか、それとも海外旅行で疲れてるのか、そんなトコだろうと思っていたが、今の会話でふと気づく。 ここを離れるのが寂しいのだ。 もっと厳密に言うと、今一緒に酒を飲んでいるこの友人と別れるのが寂しいのだ。 家を探すという目標を達成してしまった以上、いつでも帰る事はできる。 10日間の短いオフだが、丸々ロンドンに費やすわけにもいかない。次の仕事の準備に入らなければいけないし、プランBの仕事もあるのだ。 正味、あと3日ほどしかロンドンにはいられない。 今、その事実を認識してしまい、急に心に暗雲がたち込めてきたのだ。 「なあ、ショーン。仕事で長期間家を空けるだろう?家族を残して、しかも子供を置いたままってのは、やっぱり寂しいものか?」 幾分トーンの落ちた友人を見やる。 「急にどうした?」 「いや、別に・・・ふと思っただけだよ。で、どうなんだい?」 ショーンはジョッキの残りを飲み干すと、口に手を当てて考える。 ああ、これは考え事をする時のポーズだ。オデュッセウスを演った時もこのポーズをしてたっけ。 「それは…とても寂しいさ。でも、私には役者しかできないからね。可愛い子供達と生活していく為には仕事をしないといけない。」 そうだ。アンタには家族がいる。養っていかなければいけない、大事な子供たちがいる。 「あ、でも、ほとんど毎日電話やメールをやってるし、イギリスに帰った時は家族サービスしてるし、最近じゃ現場とかプレミアにも連れて来る様にしてるんだ。」 「友達は?」 「地元の連中とはしょっちゅうやりとりしてるよ。サッカーの録画を頼んだり、試合結果を聞いたり。オフで飲んだりすると、毎回毎回バカな事をしでかしたりね。それで時計を無くした事もあったなあ。」 「オンとオフを上手く過ごしてるってワケか。」 「まあ、今の所はね。」 「案外器用だな。」 「案外って何だ。」 「おっと、つい本音が。悪いな。」 「・・・私はそんなに不器用に見えるのかな?」 「・・ある意味ね。」 「ある意味?それは…どういう意味だ?」 「言葉にするのは難しいよ。でも、悪い意味で言ってるんじゃない。良い意味でアンタは不器用に見える。でも、そこが、見方によっては良いものに見えるんだよ。」 「・・・」 顔を赤くしながら、幾分座った眼をしながらショーンはしばらく眉間にシワを寄せて考えてみた。 が、いいかげん酒の回った頭ではブラッドの言わんとする事はよくわからなかった。でも、 「うーん。よくわからないけど、キミの言う事なんだから、きっとそうなんだろうな。」 そう言ってにんまりと笑う。 「・・・」 その屈託の無い笑顔を目の当たりにして、ブラッドは顔が少し熱くなるのを感じた。何やらティーンの頃にでも戻った様なその感覚に、いい年をして…と苦笑いを浮かべる。 |
あとがき 血豆ロンドン滞在記・4日目。 3日目は家探しに費やしてた、という事でカットです。でも、そのぶん前・後編に分けてみました。 自分で書きながらなんとなくヤマ場にしたいなあ、という気がしてきたもので。 この血豆ロンドン滞在記は、全体的な流れは決まっているのですが、細かい設定は実は決まってません。書きながらこんな感じ、あんな感じにまとめておこう、とやってます。 割と行き当たりばったりのある書き方です(笑) もちろん、ハナっからこういうネタで行くぜ!!と決め込んで書くのもありますけどね。1話コッキリのSSは割とそんな感じです。これは、曲がりなりにも続き物みたいになってますからねー。 でも、これを書いている間、ピットさんの方は恋愛発覚だ、妊娠だ出産だ、と、とうとう念願の子供まで作っちゃいましたからね!! おかげでこちらのモチベーションは下がる下がる(笑) それでも、まあ、所詮二次創作なのだと思い直して、書いてて楽しめる様にしてみましたw |