フォーン・カンバセーション3



「えっと・・・、向こうの時間で午後の2:30、だったよな・・」

 ここはアメリカ某所。とあるホテルの1室。ちなみにスイート。
 英国人俳優・ショーン・ビーンはノートパソコンを開いた。自分の物ではない、マネージャーから借りた物である。ちなみに今は夜中。明日も撮影が控えてる彼はなぜこんな夜中にパソコンをいじっているのだろう。
「えっと・・・え、excite・・の、movieは日本語で《映画》・・・こ、これかな?」
 何やら小さな紙片を見ながらマウスをクリックする。そこに現れたのは『王の帰還』のポスター画であった。
「えっと、・・enterがコレかな?」

 話は逆のぼること2日ほど前。その日、『ロードオブザリング 王の帰還』の日本で行われるラストプレミアに出るためにピーター・ジャクソン監督と5人の役者が日本に向かって出発した。
 その後、彼に電話がかかってきたのだ。

 RRRR RRRR RRRR
『Hello?』
『Hi!ショーン、私だ。』
『ヴィゴ。』
『ついさっき、無事に日本に到着したよ。意外に寒い。』
『無事に着いて良かった。それで、今は何を?』
『今はもうホテルにいるんだが、いい事を聞いた。あさっての21日、・・・つまり、ソッチの時間では・・20日の夜中かな?とにかく、その日に記者達を集めての記者会見があるんだ。その様子がネットで中継されるんだよ。』
『ネットで?へえ、すごいじゃないか。日本の歓迎ぶりはすごいって聞いたけど、今回も力が入ってるんだね。』
『ああ、最後のプレミアだからな。それで、モチロン見てくれるんだろう?』
『もちろん!ライブで見られるなんてサイコーだよ。・・・で、どうすれば見れるんだい?』
『ちゃんと聞いておいた。メモするものはあるか?いいか、・・・・』
『・・・・よし、わかった。じゃあ、楽しみにしてるよ。皆にもがんばれと伝えてくれ。』
『わかった。・・・でも、自分で言っといて何だが、あんたも忙しいのに夜中まで起きてるってのは辛くないか?翌日も早いんだろ?』
『そんな事はないよ。仲間たちの晴れ舞台がライブで見れるんだ。どうって事ないよ。』
『! わかった!ショーン、あんたが途中眠くならないよう、会見中面白い事をやってやろう!』
『は?何を言ってるんだ?ヴィゴ。』
『そうだ、どうせ型どおりの質問になるのはドコの国も同じさ。なら私たちが会場を笑わせてやろう!そうだ、それがいい。』
『ちょ・・ヴィゴ?聞いてるのか?』
『ホビット達なら喜んで賛成してくれるだろう。うん、それで決まりだ!と、言う訳だ、ショーン。明日は楽しみにしてろよ!じゃあな!バーイ!』
『び、ヴィゴ!?』
 プツ ツーツーツー
「時差で、ハイになってるのかな・・?にしても、一体・・・?」

 そういう訳で、彼は日本で行われている記者会見のネット中継を見るために、夜中パソコンを開いているのであった。
「おっ、繋がった。・・・まだ始まってないようだな・・」
 片手にビール缶を持ちながらショーンは会見が始まるのを待っていた。やがて、会場がざわめき、司会者らしき女性が現れ、いよいよ会見が始まった。のっけからアンディがゴラム声を披露して会場を沸かせていた。
 ヴィゴの言ったとおり、初めは良くある質問が出され、新たに付加える事が無く、表面ニコニコしながらも困った感じが伝わってくる。そんな時、

『・・・僕達の友情は映画が終わっても続いていくんだ。でもね、1人だけその縁を断ち切りたいヤツがいる。隣に居るビリー・ボイドだ。彼は・・・臭うんだよ。』
 思わず吹いてしまった。ビールを飲んでいなかったのが幸いである。
『・・・僕には彼女がいるからね、他の女性には目もくれないよ。』
『僕と彼はもう3年半の仲なんだ。』
「相変わらずだなァ、君たちは・・・」

 やがて質問が終わり、テーブルが片付けられる。それぞれがネームプレートを持ち、まるで犯罪者のように並んでいる。
「ヴィゴ、主犯の君は何をするつもりだ?」
 そうショーンがつぶやいた瞬間、動きがあった。ヴィゴが何やらアンディに耳打ちをしている。すると、6人が肩を組み、何とラインダンスを始めた。野郎6人のラインダンス。会場で本日一番の笑いと歓声が起こった。
「You did it ! ! Viggo! やったな!ラインダンスなんて・・・こんな席で。まったく、君らはサイコーだよ!」
 笑顔で顔をくしゃくしゃにしながら画面の前の仲間達に拍手を送る。今、この瞬間、地球の反対側にいる彼らと同じ空気を共有しているようで、ショーンは気分が高揚していた。
 やがて画面から彼らが消える。そしてネット中継も終わったようだ。
 それを見てショーンはパソコンのスイッチを切る。すると、携帯電話が鳴った。

「Hello?」
「ハイ!ショーン!見たか!」
「見たとも!!やってくれたじゃないか!」
「もしもし?ショーン?見てくれた?」
「ああ、イライジャ、もちろんだよ。拍手のしすぎで手が真っ赤さ。」
「ハロー!ショーン!ドムだよ! 《聞こえる?こっちはビリーだ。》 昨日ヴィゴからいきなり会場を笑わせるような事をやろう、何て言われたんだ。びっくりしたよ。 《もっとも、おかげで僕らも楽しめたけどね。》」
「ああ、君らならやってくれると思ってたよ。いっそコンビを組んだらどうだ?」
「いいね、ソレ。 《役者と2足のワラジってのも悪くない。》」
「どれ、私にも貸してくれ。やあ、ショーン、久しぶりだね。」
「監督、相変わらず元気そうで。」
「私も何かやらかしたかったんだが、監督くらいは真面目にしてろとさ。差別だ。」
やあ!ショーン、元ホビットだよ。どうだった? この声で日本語にチャレンジしてみたよ。」
「アンディ、何度聞いてもあれはすごいね、皆が驚いてるのを見て嬉しくなった。」
「ありがとう。光栄だよ。」
「おっと、ショーン、移動しなきゃ。また後で電話するよ・・・ん、ダメだ。あんたは明日に備えてもう寝るんだ。わかったかい?ビーン・ボーイ。」
「OK、マム。皆におやすみを言いたいんだけど。」
「・・・《おやすみー!ビーン・ボーイ!!良い夢を!×6》 じゃあな、また明日。」
「おやすみ、そしてありがとう。」
 プツン ツーツーツー

 サイドテーブルに電話を置く。備え付けの目覚まし時計をセットしてベッドに横になった。電器を消そうとした瞬間、再び携帯が鳴る。

「もしもし?」
「まだ起きてたのか?」
「誰かの妨害工作にあってね。」
「すぐ終わるよ。昨日から今日の会見が待ち遠しくてね。何をやらかそう、どうしたらアンタを笑わせる事ができるだろうって。それを考えてるのが楽しくて。もちろん取材やインタビューがわんさかあったが、今日の事を思うとがんばれた。・・・つまり、その・・アレ?何が言いたかったんだっけ。」
「・・・嬉しいよ。」
「ん?」
「一生懸命考えてくれたんだろ、ラインダンスの案。とっても、lovelyだった。」
「そうか・・・それが聴けて良かった。あ、そろそろ本当に行かないと。じゃあな、ショーン。明日もがんばれ。」
「ああ、君たちもな。」
「おやすみ」
「おやすみ」

 プツン ツーツーツー


                                     ――――― end 
    

 後我来
 ・・・記者会見の様子を見ていたら、それにかこつけて何か書きたくなってしまいました。記憶と興奮が冷めない内に。ドウゾ。  それにしても時差ってめんどいですね。昔は時差の求め方習ったはずなのに・・・  相変わらずヌルイ内容で申し訳ありません。『君もな』じゃなくて『君たちもな』って辺り、まだ・・