「・・・・」 「・・・・」 「・・・・何が言いたい?」 「いや、別に。」 森の中、人間2人が焚き火を挟んで座っている。 他の者は少し離れた岩かげで眠っている。2人は見張り番であった。 静かな晩だから眠っている者を起こさない様、口数は少なくしていた。 ボロミアは向かいに座している男が、先ほどからこちらを見ているが気になっていた。 「別に、ではないだろう。さっきから私の・・・っその、先ほどから・・・」 「ボロミア、顔が赤いぞ。」 「!そ、そんな事は・・火に、あたっているからだ!」 本当に正直な男だ。 大きくたくましい体をしているくせに、顔を赤くしながらオロオロしている仲間をアラゴルンはほほえ ましくながめていた。 「何が可笑しい。」 そうしてつっかかってくる姿はとても愛しい。 でも口にはしない。この言葉は冗談ととってほしくないから。その時までにとっておく。 「いや、アンタがあまりにも可愛いから。つい、ね。」 「っか、かわいい!?」 目をぱちくりさせる。恐らく今までの人生の中で数多くの称賛を受けてきた彼も、まさかこんないい年した男に「可愛い」などと言われた事はないだろう。 「あ、アンタは私をバカにしてるのか?」 ちょっとからかいすぎたか。 「いいや。」 アラゴルンはすっくと立ち上がり、ボロミアの隣に腰を下ろす。 「アンタは真面目な男だな、ボロミア。」 「!な、何を。」 つつ、と少し距離を取るボロミア。 「私だってたまには正直な事を言うよ。」 おどけるように笑った。 「・・・・」 「どうした?」 赤々と燃える炎に照らされる顔。思わず見入ってしまいそうになる。 「その、私は 、こういう性格だから。」 ちらと視線をアラゴルンにやる。 ああ、そんな瞳で見ないで欲しい。 「冗談でもつい、本気にとってしまうのだ。だから、その、あまりからかわないでくれ。」 「・・・迷惑だったか?」 「いや、そんな事は無い。その、気を使ってくれたのだろう?その気持ちはとてもありがたい。だが私は、 こういう性格だから。」 苦笑を浮かべるボロミア。 「・・・・・」 アラゴルンは立てた膝の上に手を組んで、その上に顔を突っ伏した。 「あ、アラゴルン?」 顔を伏せたまま彼は体を揺らしている。どうやら笑っているようだ。そして彼はおもむろに顔を上げた。 「・・アンタって人は。・・冗談は冗談だ。軽く流せばいいのに。」 「聞き流すなんて!あんたの言葉を。」 「!」 今度はアラゴルンが驚いた。 ボロミアははっとして慌てて口を押さえる。 「やっ その、い、今のは聞かなかった事に・・・」 「いや、聞いた。両の耳でしっかりと。」 かわいそうな位顔を赤くしながら慌てふためいている。 「『私の言葉』は例え冗談でも聞き流せないと?」 「・・・・(汗)」 ボロミアは片手で顔を隠していた。 「それは光栄な事だと思っていいのかな?」 「・・・・・」 への字に結んだ口が何とも可愛らしい。 「ボロミア」 優しく声をかけるとアラゴルンはそっとボロミアの手首に手をかける。 初めは少し抵抗したものの、少し力を加えるとすっと手が下ろされ、ボロミアの顔が現れた。 かすかにうるんだグリーン・アイ。 その中にちらちらと炎が揺らめいている。 「・・アンタがそんなに困るんだったら、少しジョークは控えるよ。それでいいな?ボロミア。」 「えっ? あ、ああ。・・でも、」 「でも?」 「その、その内慣れる。・・・様にする。だからたまには冗談も言ってくれ。」 「・・私の為か?」 「!」 あんたを困らせるつもりはない。でもその顔が、ほんのり赤くなって困った様に視線を泳がせているあんたが、あんまり可愛いから。 「・・だから、つい口が滑る。」 「・・何か言ったか?」 やや不機嫌そうな口調だ。アラゴルンは横顔を押さえている指の間からチラっとボロミアを除き見る。そしておもむろにボロミアの肩に腕を回し、やや強引に顔を寄せた。 「っ!」 彫りの深い、端正な顔がすぐ側に、少し縮れた漆黒の髪が顔に当たった。 見る者をとらえて離さない強い眼には今、自分の顔が映っている。この瞳に見つめられると何も言えなくなり、動けなくなる。有無を言わせない、つよい力。それに惹かれている自分。 低く、艶っぽい声がささやいた。 「・・冗談なのにこの有様なら、本気で口説いたらどうなるんだろうな。」 目を細め、何とも魅力的に微笑む。 「・・え?・・」 思わずアラゴルンを見上げるボロミアにカウンターでそっと、触れるか触れないかの口づけをした。 「!?」 目をまん丸にするボロミアにもう一度微笑みかけ、こつん と額を合わせると、ご機嫌顔で立ち上がり、元の位置に腰掛ける。 「ボロミア、いつまで口を開けている。」 もっと何かしてほしいのか?と心の中で付加えた。 「え?あ、いや・・その、い、今のは?」 言わせたいのか?俺の方から? 「・・深く考えるな。私からの深愛のしるしだ。受け取っておけ。」 「し、親愛・・そ、そうか、ありがとう。」 口に軽く手を触れ、安心した顔で礼を言う。 言いたい事は沢山あるが、またの機会にしよう。 「少し眠っていいか?1時間したら交代しよう。」 「ああ、わかった。」 「今なら良い夢を見られる気がするよ。」 「そうか。良い夢を、アラゴルン。」 目を閉じる。パチパチと火のはぜる音がする。 そして向かいにいる男の気配。それと、 視線も。 どうせなら目を開けている時に見てくれればいいのに。 でも、あせらずにいよう。 ゆっくりと。 ゆっくりと。 どうやら脈はあるみたいだから。それに、 今のこの状況も、悪くない。 「ボロミア。」 目を閉じたまま声をかける。慌てた様子が感じでわかる。 「な、何だ?」 「・・〈Je t’aime beauque, Boromir.〉」(エルフ語) 「えっ?・・」 どういう意味だと聞かれたが答えない。 口元に笑みを浮かべて眠りに落ちていく。 辛い道中のひとときの安らぎ。 愛しい時間、愛しい会話、そして いとおしい君よ。 もう少し、この甘く、くすぐったい感覚に酔っていたい。 あんたもそうだろう? My Dear. END |
あとがき 気づけよ!!ボロミア。 自分で書いたものに何ツッコんでるんでしょうね。本当はこんなかんじのノリが好きです。いちゃいちゃべたべた。ボロミーを手玉に取る王様? さて、今回のタイトル、いかにも甘いよ!ってカンジですね。Dear×3.このタイトルのおかげで最後むりやり愛しい○○を3つ入れました。いとおしい、と読んで下さい。 今回一番書きたかったのは「冗談なのに〜本気で口説いたら〜」のこの辺。深愛と親愛は即興で思いつきました。テレるボロを愛でるアラ。好きなんです。 しかし、この2人の会話、●陽師の中にも似たような会話がありましたね・・・ウッカリ。私の中では博雅やワトスンは同系統だと思ってます。ボロミアは・・・ちょっと違うかな? ☆エルフ語と称して書いたのはフランス語です。他に外国語はわからないもんで。 つまり、英語に訳すと I love you so much, Boromir.ですな。ジュテーム=愛してる、と思われがちですが、映画が好き、赤が好き、という場合も 好きという動詞、aimerを使います。愛してるは多分amourですね、きっと。アムール。モナムールとかって聞きません?え!私の愛人!?アレ?まあ、めんどうで辞書すら引いてないので、深く突っ込まんといてくださいませ。たは! でわ、おさらば! |