さて、指輪御一行は何とか大魔王 ここ、ゴンドールも正統な王の血を引いたアラゴルン改めエレスサール王を迎え、国の復興に努めていたのでした。 長年の争いや戦で荒れ果てていたゴンドールも、日に日にあるべき姿を取り戻しつつあったのです。これというのも新たな王のおかげ、というのももちろんですが、それを支えている人たちの甚大な協力があってのものでした。 「陛下、どちらにおいでです?エレスサール王!」 ぱたぱたと足音をたてながらゴンドールの新執政、ボロミアの声が城内に響きます。 一度は死んだと思われていたボロミアは、実は九死に一生を得ていたのです。回復までにはかなりの時間を要しましたが、いまは王の手の力のおかげもあって国務に精を出しています。 「お早う、ボロミア♪今日も良い天気だね。」 と、そこへひょっこり顔を出してきたのは旅の仲間のレゴラスでした。戦いが終わった後も、この好奇心旺盛なエルフは復興の手伝いをするという名目で、ゴンドールに居座っていたのです。 「ああ、お早う、レゴラス。・・・アラゴルンを見なかったか?」 朝日すら思わずはにかんでしまいそうな柔らかな笑顔で挨拶を返します。 レゴラスは毎日、この笑顔を再び見られる事に感謝の祈りを心の中で唱えるのでした。 「アラゴルン?彼なら中庭の東屋にいたよ。なんだ、また執務をサボってるの?彼が王様だと執政の君も大変だね。」 「中庭か、わかった。ありがとう。・・・大変なのは確かだが、この大変さは以前のそれとは違う。レゴラス。私は今大変充実しているんだよ。では、また後でな。」 そう言うとボロミアは小走りで中庭の方へと向かいました。 レゴラスはそれをニコニコと微笑みながら送ります。 「ふふ、ボロミア。僕も今とっても充実した日々を送っているんだよ。それも君のおかげかな。」 ここは一部の王族しか入る事が許されていない特別な中庭。そこの東屋に寝転んでいる男が一人。 「陛下、やっと見つけた。」 「ん、ああ、ボロミア。お早う。朝からアンタの顔が拝めるなんて嬉しいよ。」 閉じていた眼を開けて、わずかにほころびながら王は言いました。 「それは結構。嬉しいついでに早く執務に取り掛かっていただければ結構この上ないのですがね。」 「ボロミア、ここには私たちしかいない。その堅苦しい話し方はやめてくれないか。頼む。」 ちらりと真剣な眼差しをむけるとボロミアは少し弱った顔をして、短いため息を漏らします。 「・・・わかったよ、アラゴルン。」 「その響きがいい、我が執政殿。まあ、座れよ。」 そう言ってぽんぽんと自分の隣を叩きます。不承不承にボロミアは腰かけました。 すると、突然アラゴルンがボロミアの膝に頭を落としてきたのです。 「っ、アラゴルン!?」 すぐに顔を赤くしながらボロミアは眼を下に向けます。アラゴルンはニコニコと笑っていました。 「・・・いいじゃないか。しばらくこうさせてくれ。」 「し、しかし・・・」 「指輪が滅び、民は次第に平穏と幸福をとりもどしつつある。だから、ボロミア。私にも、幸せをゆっくりと噛み締める時間を、くれないか。」 「し、幸せ?」 眼を丸くしてボロミアは聞き返します。 「ああ、そうさ。・・・アンタがここにいるという幸せを、もっと、感じさせてくれないか?」 「!!」 そうしてアラゴルンは、うっすらと上気するボロミアの頬に手を伸ばしました。 「やあ!2人とも!!ここはいつ来ても素晴らしい庭だね!!」 「わ!!」 「!!!」 何となくイイ雰囲気の所へ、いきなりレゴラスがやってきました。ボロミアは慌ててアラゴルンの頭を放り出します。アラゴルンは勢い余って長椅子から上半身がずり落ちました。 「や、ボロミア。アラゴルンは見つかったようだね。じゃ、彼には仕事に戻ってもらって、今度は僕と付き合ってよ。」 アラゴルンの焼け付くような視線(悪い意味で)もモロともせずに美麗のエルフは天真爛漫な笑顔をふりまきます。 「私に何か用事が?」 「ああ。アナタにお願いしたい用事なら山ほど持ち合わせているんだよ。そうだなあ・・・とりあえず城下の案内とか。何だかんだでまだゆっくり見た事ないんだ。ここで生まれたあなたに案内してもらえたら嬉しいんだけど。」 その腹の内とはうらはらなピュアピュア笑顔と、鈴の鳴る様な声でレゴラスは話します。 「城下の案内か・・・いつか君たちにはしてあげたいと思ってた事のひとつだよ。そうだな・・・近い内に案内してあげたいのだが・・・」 「生憎だが、彼も私も執務で忙しいんだ。《観光なら一人で存分にやってくれ。元々あちこちフラフラするのは好きだったろう?遠慮する事はない、思いきり探検してくればいいさ。》」 ぎこちない(無理に作った)笑顔でアラゴルンは途中からエルフ語で話しかけました。 「それもいいんだけどね、僕はボロミアに案内してもらいたいんだよ。」 レゴラスは人の言葉で応えます。 「ならば、私も同行しようじゃないか。私もゆっくりこの街を見学したい。」 「・・・君は必要ないんじゃないの?《この街のことなら十分知ってるだろう?星の鷹殿。》」 エルフ語交じりの会話にボロミアは多少戸惑い気味です。 「・・・っ、それはともかく、今日はダメだ!今日は私の執務に付き合ってもらう。その話はまた今度。」 そう言うが早いか、アラゴルンはボロミアの腕を取ると立ち上がって駆け出そうとしました。 「遅い!!速さでエルフに勝とうなんて一生あがいても無理だね!!」 間髪いれずにレゴラスが反対側の腕を掴みながら立ち上がります。 「うわ!」 アラゴルンとレゴラスがボロミアの腕を引っ張り合う形となりました。・・・2人ともかなり本気で引っ張り合っています。エルフはその華奢な外見とは似合わない怪力の持ち主です。アラゴルンだってダテに古の血を引いているわけではありません。さすがのボロミアもこれは厳しいのか苦悶の表情を浮かべていますが、2人はそれどころではありません。 「・・・放せ!!この腹黒エルフ!!」 「放すのはそっちだ!エセ馳王!!」 「両者とも!そこまで!!!」 辺りの空気を引き裂くほどの鋭い、大きな声が響きました。 それは、2人が思わず握っていた両手を放してしまうほど、気迫のこもった声でした。(むしろ鬼気迫るような) 「ファラミア!」 アラゴルンとレゴラスがその声の主を見る前に、ボロミアが助かったと言わんばかりに声を上げました。 そこには無表情ながらもどこか静かな怒りを満面にたたえたファラミアが立っていました。 「兄上、大丈夫ですか?」 「ああ、大丈夫だ。」 弟の手を借りながらボロミアは立ち上がります。ファラミアは兄の服についた埃をかいがいしくはたきます。 「執務室に伺ったのですが姿が無かったもので。やはりこちらにおいででしたか。」 「アラゴルン・・・、いや、王を探してここに来た。」 「ほう・・・」 鋭くも冷ややかな視線が一瞬アラゴルンに突き刺さります。 「エロス・・・いや、失礼。エレスサール王よ、困りますな。王たる御方が執務を放棄して執政を困らせるとは・・・」 「(コイツ・・・絶対ワザと言い間違えたな)いや、放棄とは少々言い過ぎでは・・・」 「貴方ほどの聡明な御方ならば、今がどういう時かお判りでしょう。一刻も早い復興が、今のゴンドールには必要なのです。だから兵も民も、病み上がりの兄上や私もこうして尽力しているのです。それを一番上に立つ貴方がこの様な有様では困りますな。皆の指揮にもかかわります。」 筋の通った隙の無い言葉に、思わずアラゴルンは言葉を詰まらせます。 「もっと王としての自覚が必要だね、アラゴルン。」 ここぞとばかりにレゴラスがダメ押しします。 「レゴラス殿。貴方がゴンドールにいるのはどういう理由からでしたかな?」 「え?その、ゴンドールの復興に力を貸そうと・・・」 「たしかそういう約束でしたな。それでなくても貴方はこの国を救ってくださった方の一人です。大変感謝しております。しかし、貴方がたエルフとは違い、我々人は脆いのです。兄上も表面上は元気で大事無い素振りをしていますが、一度は死ぬ程の重症を負った身。完璧に体調を取り戻していない今ならば、日々の僅かな疲れが蓄積すると大変障るのです。貴方ならばそれを解かって下さいますよね。」 そう言って心からではない笑顔を浮かべます。 「あ、そ、それは、もちろん。」 「ならば、城下の案内は兄上が完治してからお願いします。」 「・・・わかったよ。」 「ファラミア、心配は嬉しいが、私は本当にもう大丈夫だ。大事無い。それよりお前の方こそ病み上がりではないか。」 さほど背丈の変わらない弟の肩に手を置き、心配そうな顔をします。 「・・・兄上の負った怪我に比べれば何ともありません。でも、御心配ありがとうございます。」 「心配なんて、当然だろう。私はお前の兄ではないか。」 「・・・そして今となってはたった一人の家族です。」 「ファラミア・・・」 完全に2人の世界に入った兄弟を、アラゴルンとレゴラスはボー然と眺める他ありません。 この2人は素でブラコンなのです。これが普通なのです、車で言うならニュートラルなのです。 「ボロミア、貴方は只でも自分より他の者たちに気をかける性質(たち)があります。もっと、もう少しご自分を大事にして下さい。貴方はこの国の執政なのですから・・・」 「わかっているよ、ファラミア。でも、お前がいるから私も安心して仕事ができるのだ。感謝している。」 「さて、2人とも積もる話はまた今度にして、仕事に行こうか。ファラミア殿もそれが目的だったんだよね。」 イイ雰囲気の兄弟にレゴラスが水を差します。ファラミアの鋭い射抜くような一瞬の視線を、笑っていない笑顔で受け流し、何気にボロミアの隣に陣取ります。 「・・・今度故郷から体に良く効く薬を取り寄せるよ。早くアナタに良くなってもらいたいからね。」 「それはかたじけない。ありがとう、レゴラス。〈にっこり〉」 「僕たちは同じフェロウシップの仲間じゃないか。気にしないでよ。」 一部分を意味を二重に、強調して話します。 「・・・兄上、今日はこれから兵達の訓練を見るのではありませんでしたか?皆兄上が来るのを待っていますよ。」 「ああ!そうだった、すっかり忘れてたよ。ありがとう、ファラミア。では、アラゴルン、レゴラス、私は一足先に失礼するよ・・・アラゴルン、早く執務に戻ってくれよ。ファラミア、王を頼む。」 そうしてボロミアは足早にその場を去ってゆきました。 途端に場の空気が氷点下を下回るほど冷たくなります。 「・・・良いところをジャマしてくれたな」 低く、迫力のある声でアラゴルンが言いました。 「邪魔なんてそんな。私は兄上を探していただけです。」 「2人ともやることが陰湿だよ。何かともっともらしい口実で攻めてくるんだから。これだから人間ってのは・・・」 「人の世界がお嫌でしたら、いつでも故郷に戻って構いませんよ。」 「それがこの国を救った恩人に対する物言いか?(・・・父親にそっくりな物言いだな・・・)」 「僕はともかく、キミが恩を着せるのは間違ってないかい?王が自分の国を守るのは当たり前の事だろう?」 3人の視線が絡み合います。まるで火花が散ってもおかしくない程に。 「・・・とにかく、私の目の黒い内は、兄上に手は出させませんよ。絶対に。」 「望むところだ。」 「負けないよ。」 − 相手にとって不足は無い − そう言って3人は不適な笑みを浮かべます。 3人とも、どこか嬉しそうで、楽しげでもありました。 それは、ゴンドールではもう日常茶飯事のできごとでありました。 ゴンドールは今日も平和なのでありました。 おわり |
アトガキ 22222を踏んで下さった及川様のリクエストで、お題は『アラゴルンとレゴラスのボロミア争奪戦with小姑ファラミア』でした。 が、フタを開けてみれば思いのほかファラミアが出張ってますね(汗)むしろゴルンVSレゴVSファラミアでした。そして、今回初めてボロミア生還ネタを使いました。この4人が一緒というのは指輪戦争後しか思いつかなくて。・・・案外楽しいです。それとイチャこくゴルンとボロとか兄弟とか。レゴがちょっとイチャイチャさせてあげられなかった・・・ 設定的には、一度は死んだボロミアが、あの滝から落ちたショックで再び息を吹き返したんですよ。そこをオスギリアスでファラミア一行に発見されてゴンドールまで運ばれる。その後パワーMAX王の手とかで回復する、と。そんでそのままボロミアが執政職を継いで、ファラミアがそのお手伝いをして、でレゴラスがボロミア目当てでゴンドールに居ついて(笑)。そういう感じでゴザイマス。 ボロミア争奪戦、やっぱり楽しいですね。今回はちょっとギャグーな感じは少なかったですが、今度書くときはもうちょっとギャグ多めで書いてみたいです。 様、とりあえずこんな感じになりました。少しでも楽しんでくれれば幸いでゴザイマス。 ・・・・え?アルウェンやエオウィン?まあ、まあ、今回はパラレルなんで、彼女たちもまあ、スルーって感じで(笑) |