1.詩人
2.きょうだい | 「まこと、あの御兄弟は仲が良いですな。」 「歳は5、6つ離れているらしいが、そんな風には見えぬな。お姿もよく似ている。」 「まったく。見ていて、こう、頼もしい感じがしませんか。デネソール様も良い御子を持った。」 「・・・この様な時世に生まれながら、ああも健やかに成長なさるとは。」 「本当に。」 城の片隅で誰かが囁く。話題の当人達は、城の狭間を並んで歩いていた。 ボロミアとファラミア。現執政、デネソールの息子達である。 「ファラミア、今日は天気が良くて気持ちいいな。ベレンノール野があんなにもはっきりと見える。」 「そうですね。風も心地良いです。」 「こんな日は執務なんか放り出して、早駆けにでも行かないか?」 「…こんな良い日は、早々に執務を片付けて、早駆けに行きたいですな。」 「…言うではないか。」 ボロミアは弟の方を恨めしそうに見やった。 そんな兄の視線はどこ吹く風で、ファラミアは気持ち良さそうに背伸びをする。 風がそよいで、そのゆるやかな金髪を揺らした。 「私も手伝いますから、午後は外に出かけましょう。」 にっこりと微笑むファラミア。部下の前では決して見せない笑顔だ。 「書類仕事はどうも性に合わぬ。」 「知ってます。だから、手伝うと言ってるではないですか。」 弟は何としても、兄に仕事をさせたいらしい。 ファラミアは兄の肩に手を回すと、くるっとUターンさせた。 眉をひそめながら、不承不承に進むボロミア。 「兄上、そんな顔をしないで下さい。せっかく晴れた空も雲ってしまいます。」 「その様な雲は見えぬがな。」 そう言って天を仰ぐボロミア。柔らかな日差しが顔を照らし、翡翠の様な瞳が一層美しく光る。 「曇るのは天の空ではありません。」 「? どういう事だ?」 「私のここが、」 そう言うとファラミアは、自分の左胸の辺りをトントン、と叩き、「曇ります。」と、兄を見ながら告げた。 驚いた様に目を丸くするボロミア。だが、その顔はすぐに苦笑に変る。 「まったく、お前は私を乗せるのが上手い。」 「自負はありますよ。何年一緒にいると思ってるんです?」 「お前が生まれてからずっとかな。・・あんなに小さかったのに、こんなになって。」 そう言うとボロミアは弟の頭をくしゃくしゃと撫でる。嬉しそうに目を細めるファラミア。 「可愛い自慢の弟でしょう。」 「ああ、そうだ。私はどうだ?自慢の兄か?」 「私の自慢の兄上は、弟との時間を作る為ならば、苦手な仕事も喜んでこなして下さる、でしょうね。」 「もちろんだ。お前も手伝ってくれるんだろう?さっさと片付けてしまおう。時間がもったいない。」 口の端を持ち上げながら、ファラミアの顔を覗く。交差する視線。すぐに弟の顔にも笑顔が浮かんだ。 「はい、ボロミア。早々に終わらせてしまいましょう。」 そうして白の塔の兄弟は、肩を組みながら足早に城の中へ戻っていった。
3.黄金時代 | 和やかな風が凪ぐ良く晴れた日の午後。 領地から城へ赴いた執政が、狭間から石の街を見下ろしていた。 その横顔は天上の輝きとは裏腹に、かすかに影が伺える。 「どうした?ファラミア殿。何か心配事でも?」 「陛下…」 ハッとして振り返ると、薄い笑みを浮かべた王の姿があった。 「いえ、心配事など。」 「嘘はいけないな、ファラミア殿。王と執政の間に遠慮は不要だ。」 「はあ…」とためらいがちに呟くと、ファラミアは口を開く。 「私のくだらぬ杞憂です。今、この国は平穏を取り戻しています。ずっと待ち望んでいた平和がようやく訪れたのだと、感じています。」 そう、ずっとずっと、幼き頃より望んでいたものだ。 「ですが、つい、思ってしまうんですよ…この平和はいつまで、続くのだろうかと。」 「・・・・」 どこか申し訳無さそうに眉をひそめるファラミア。 「…長すぎたんだ、ファラミア殿。我らが闇に怯えていた時間が、あまりにも。」 平和に慣れていないのだ。それは、とても悲しい事かもしれない。 「永い歴史の中で、私たちが紡ぐ物語はあまりにも短い。」 「…」 「だが、後世に想いを繋げる事はできる。私達は、私達ができる事をすればいい。そして、後に繋げる事。」 かつて、自分たちの父祖が託し、託されてきたたくさんの想いを、願いを、今度は自分達が繋げるのだ。 そうすれば、きっと。 「…ようやく一仕事終えたと思ったら、まだ大事な仕事が残っていましたか。」 「ああ。私も君も、責任重大だ。」 「ええ。」 そうして王と執政は少しだけ笑う。 二人を巡る様にするりと風が通り過ぎた。
4.不幸 |
5.指輪の本 |
6.書簡体小説 |
7.街のうた |
8.無韻詩 |
9.魔法の島 |
10.ファンタジー | 平和の光が、街を照らす。 まばゆい光が、どこか、痛い。 あの光はかの人を思い出させる。 太陽のごとく輝く髪、相手の心を溶かす微笑み。 夢でも幻でもかまわない。 切に、願う。 会いたい。話したい。触れたい。 ボロミア。 この想いは何処へ届くのだろうか。 願わくば、君の元へ。 |
あとがき 2・きょうだい:久しぶりにイチャこく兄弟が書きたかったんです。 ファラミアの口調がちょっと生意気なのは、映画よりまだ若い頃の2人を描いたからでっす。 20代後半位だとお考え下さい。 3.黄金時代:黄金時代=平和な時代、と解釈して書きました。 王様ゴルンと執政ファラミアです。・・・うわ。 この2人が仲良くしてるなんて、 自分で書いてて変なカンジです… 人類の歴史だって、争いの繰り返しですからねー。ちょっと複雑な気分です。 10・ファンタジー:ファンタジー=幻想 として書きました。これでもアラボロです; どうも指輪について色々知ってしまうと、ハッピーなアラボロは書きにくい・・・ 変な所にこだわってしまうので、ハッピーなアラボロを書こうと思うと、シチェーションが限定されてしまうんですよ・・・あの2人が一緒だった時間って、結構短いですからね。しかも旅の途中だし。 |