夫の苦境、妻知らず



 白き都、ミナス・ティリス。
 執政家が住まう屋敷の庭園で、現執政・デネソールはしかめっ面をしながら庭の東屋にある石造りの長椅子に腰かけていた。
 そんな顔とは縁遠く、遥か空にはさんさんと太陽が輝いているある初夏の昼下がり。

 執政殿の両腕にはまだ1歳になる次男殿がすやすやと安らかな寝息を立てている。
 その隣には6歳の長男殿がうつらうつらと首を揺らしながらちょこんと座っていた。
 そして彼らの父親は背筋をピンッと伸ばしてキッと正面を睨みつけ、口を真一文字に結びながら何かを待っていた。

「ま、まだか、フィンドゥイラス・・・」

 彼は妻の名前を呟いた。
 事のいきさつはこうである。その日の午後になって、妻が子供たちを連れてひなたぼっこに出ないかと誘いに来た。
 丁度書類仕事が片付いた彼は、たまにはいいだろうと4人揃って庭に出たのである。
 しばらくは長男や妻の話に耳を傾けていたが、その内妻が次男の玩具を取ってくると言ってファラミアを預けると城へ戻っていった。
 ところが、しばらくしても戻ってこない。その内次男はいつもより大きな腕の中が心地良かったのか、眠ってしまったのである。加えて長男までもが午前の剣の稽古疲れと心地良い午後の空気が気持ちよかったのか、父親の体に寄り添うようにこっくりこっくりと首を上下させ始めたのである。背もたれのない長椅子なので、ひっくり返ってしまわないか父親は気が気ではなかった。かといって腕を動かして次男を起こしてしまわないかという心配もあった。ましてや泣き出してしまったら。さすがの執政殿も泣いた赤ん坊をなだめすかす方法は心得てなかったのである。
 唯一の頼みの妻は、なぜか戻らない。その内、ボロミアの体の揺れ具合が大きくなってきた。

「ぼ、ボロミア・・・」

 件の稽古で疲れている息子を起こすのも酷である。それほど暑くはないのにデネソールの額からしったりと汗が落ちてきた。
「!!!」
 ついにボロミアの体ががくんと前のめりに倒れた。デネソールはとっさに自分の左足を差し出し、それを止める。
 ボロミアはデネソールの腿に軽く抱きつくようにスースーと寝息をたてていた。
 それを見てほっとするも、ますます複雑な姿勢の自分に気がついて視線を建物の方へ向けて妻の姿を待つ。
「お、遅い・・・」
 徐々に痺れてくる足と腕。流れてくる汗。そんな父親の苦悩は知らず、安らかな寝顔の兄弟。

 一方、その頃のフィンドゥイラスは・・・
 せっかくだからちょっとしたおやつを持って行ってあげようと厨房にいた。
 夫の状況はいざ知らず、料理人や侍女とお菓子のレシピについて楽しく談笑していたのである。

「(ま、まだかーー!!フィンドゥイラスーーーー!!!)」
「っくしゅん・・・あら、なんでクシャミなんか出たんでしょう・・・まあ、いいわ。」
 

                                              おわり

あとがき
 ハイ、執政一家でゴザイマス。
 その後デネソールはどうなったか・・・ 
 その内にボロミアが夢でも見て、デネの太ももをさすったりするんですよ。それでくすぐったいけれど動かしたら 2人とも起きてしまうんでものすごい顔して我慢するデネソール。今のこの顔を誰かに見られたらどうしよう、特にソロンギルなんかには絶対見せられない顔だ、ってなんでアイツの事を考えてしまったのか、ああ・チクショウ!
とか考えたりして、もうアレコレ色々限界だ!って時にようやくフィンドゥイラス到着。
 「あら、ごめんなさい、殿。」
 なーんて言う妻の顔を見ると説教する気にもならなくて、深いため息をつくんです。
 長すぎるんでここで一気にまとめました。あとで完全版をアップしたいなあ、と思います。