それは良く晴れた日のある午後の事です。フィンドゥイラスは息子達を部屋に呼びに行ったのですが、扉を開けると息子達の姿は見えませんでした。 「どこに行ったのかしら?」 小首をかしげてフィンドゥイラスは廊下に出ました。あちらこちらを見ながら歩いていくと、先の方に彼女の夫、息子達の父、デネソールの姿が見えましたが、向こうはこちらには気づいてない様でした。 少しして、フィンドゥイラスは夫の様子が少しおかしいのに気がつきます。こちらに近づいてくるのが遅いのです。それに何やら表情も普段と違います。不思議に思いながら歩いていくと、デネソールが妻の姿に気づき、一瞬目を輝かせます。 「フ、フィンドゥイラス、良い所へ。」 「どうかなさいました?」 「これを何とかしてくれ。」 デネソールはマントの後ろを示します。ひょい と除くと、何と、息子達がデネソールのマントに掴まっていたのです。 「あら、ボロミア、ファラミア、ここにいたのね。」 「あー、母上ー!」 「ははうえー」 母親の姿を見つけると、2人の息子はとても嬉しそうに笑いました。 「お父様に遊んでもらってたのね。」 「そうです♪」 「ですー♪」 「違う。」 デネソールがやんわりと小声で否定しました。 「執務室から出たらいつの間にかくっついていた。何度も言ったのに放そうとしない。何とかしてくれ。」 普段から眉と眉の間に皺を寄せ、厳しい顔つきをしているデネソールですが、今はどこか弱ったような、どう対応したらいいのかわからない様な、この姿を臣下たちに見られて恥ずかしい様な、とにかくいつもと違い、幾分可愛らしい顔をしていました。・・・少なくともフィンドゥイラスにはその様に見えたのです。 そういえば、すれ違う人々や衛兵たちが何か笑いをこらえているような、珍しい物をみたかの様なそんな顔つきをしていました。きっとこの光景を見たからでしょう。 フィンドゥイラスは納得します。 「でも、せっかくですから、この子達を部屋まで連れて行ってくださいませんか?わたくしも御一緒しますので。」 「う、うむ。わかった。部屋までだな。」 こほん と幾分わざとらしくせき込みます。 「では、参りましょうか。」 そう言うとフィンドゥイラスはすっ とデネソールの後ろにつきます。 するときゅっと夫のマントを掴みました。 「あー!母上も一緒にやるの?」 「ははうえもいっしょー」 それを見て兄弟はきゃっきゃと笑いながら移動を開始します。 デネソールのマントをフィンドゥイラスが掴み、その服のすそをボロミアが掴み、さらにその服のスソを、まだよたよた歩きのファラミアが掴みます。 「!!??ふ、フィンドゥイラス?何を・・・」 今度は少し蒼白になってデネソールが後ろを振り返りました。すると、 「父上、行きましょー(にこにこ)」 「ちちうえー、ましょー(にこにこ)」 「さ、殿、参りましょう(にこにこにこ)」 さすがのデネソールもこの天然満面笑顔×3を前にしては文句も何も言えません。口をぱくぱくさせ、少し放心気味で、それでもゆっくりとした歩調で(よたよたと)歩き始めます。 (・・・フィンドゥイラスはあの様な性格だったろうか?こちらへ来て、やたら父上とウマが合ってた様に見えたが、その影響か?) そんな事をおぼろげに考えながら子供たちの部屋へと向かいます。呆然としていたせいでしょうか、物陰から父親のエクセリオンが息子一家の様子を眺め、にんまりと笑っていたのには気がついていませんでした。 ・・・この日、多くの目撃者が(あまりにも珍しいものを見た為)日記や記録書にこの事を書き留めたそうです。その内容はだいたい似通っていました。時の執政、エクセリオンの嫡男・デネソールとその一家が仲睦まじく縦並びになって城内を散歩していた、と。特に普段から厳しい顔をしていたデネソールがこの時ばかりは父親の顔になっていた、と書いた者も少なからずいたのでした。 おわり |
アトガキ 目標だった幸せ親子!!を書いてみました。元々は、指輪お題の9番目、『接着剤』のネタでしたが、ネタ的に気に入ったので、独立させ、ちょっと長めにしてコチラに持ってきました。いかがでしょうか? ちなみに、この話、後日談も考えましたので、よろしかったらコチラも読んでみて下さい。本編に付けたらシマリが無い気がしたので。 妻と息子×2の天然パワーにはさすがの鉄面皮・デネソールも適わなかったのでしょう。デネフィンはワタクシ、リバーシブル可、だと思っていますので(笑)自由な空気の中で育ったお人ですものね、フィンドゥイラス。弟君(シスコン希望←オイ!)も気になる今日この頃です。 |
それから数十年後、27代執政・ファラミアが父の使っていた部屋を整理していると、隠し棚を見つけました。そこには油紙に包まれた一枚の絵がありました。 その絵には、どこか恥ずかしがっている若き日の父・デネソール、そのマントをつかみ、まるで少女のような笑顔を浮かべている母・フィンドゥイラス、そのドレスの裾を掴んではしゃいでいる兄のボロミア、そしてさらにその上着の裾を掴んでいる幼い頃の自分が描かれていました。 ファラミアは長い時間、その絵を眺めていました。 その後しっかりとそれを胸に抱きかかえます。 そして、その絵を王にも、妻にも黙ってイシリアンの自分の部屋に持って帰ったのです。 その後、ファラミアはその絵をたいせつに、たいせつにしていました。 たいせつに、たいせつに・・・・・ |
あの光景を、実は宮廷画家が見ていて、ソレを内緒で絵にしたと。それを知ったエクセリオンが絵をもらい受けて、デネソールに渡した。でも、デネソールはフィンドゥイラスの死後、その絵を隠すようにしまっておいた。・・・それからファラミアが発見した。と。 ファラミアはこんな事もあったのだと驚いた事でしょう。この時まだ1,2歳なので覚えていなかった。それで、人に見せたら何かが減ってしまいそうで王にもエオウィンにも内緒でお持ち帰りしてしまった、と。そんな感じです。 |