さて、その後。 アラン、ネモ、ソーヤーの3人は午後のお茶をするためにノーチラス号の艦内を歩いていた。 「Mrクォーターメイン、私はちょっと厨房に寄ってくる。お茶の準備をしてこないと。だから2人で先に行っててくれ。」 「ああ、わかった。」 「ケーキよろしく!」 そうしてネモと別れる2人。 「アラン、何さっきから仏頂面してるのさ。」 「・・いいや、別に。」 しばらく歩く2人。 すると不意にアランが足を止めた。 「どうしたの?アラン。」 「シッ。 止まれ。」 「?」 立ち止まったままアランは周囲に目を走らせる。 10秒ほど経った後、アランは突然後ろを振り向き、手を伸ばした。 何も無いはずの空間に何やら手ごたえがある。 「こらっ!スキナー!!船の中では服を着ろと言っただろう!」 「Shit!あァ、クソッ!!何でいっつもアンタにはバレるんだ!?」 「姿は消せても、気配までは消せないようだな。」 「そんな。気配だってバッチリ消せるんだぜ?オレは。」 「私に言わせるならまだまだだ。精進するんだな。」 そう言ってアランは手を離す。 「ハイ。スキナー。こんな所で服も着ないで何してたのサ。」 「いやね、散歩してたらアンタらの声がしたもんで、ちょいと驚かそうと思ってね。で、そっちは2人そろって何してんだ?」 「ネモ船長にお茶に呼ばれたんだ。あ、スキナーも行こうよ、大勢の方が楽しいし。」 「お茶ね、まあ、小腹も空いてるし、行こうか。あ。ちょっと待て、そこにコートとグラスを隠してあるんだ。」 2,3分ほど待つと、服とサングラスを身につけたスキナーがやってきた。 「お待たせ。さ、行こうぜ。」 「スキナー、今度からはちゃんと服を着るんだぞ。」 「ハイハイ、善処しますョ。」 3人は歩き出す。 しばらくすると、少し先の部屋からジキルが出てきた。 「ジキル。」 「やあ、ジキル。」 「ハロー、ドクター。何やってんだい?」 「ああ、皆さん、こんにちわ。」 軽く会釈をする。 「ここは・・・医務室。どこか具合でも?」 「いいえ、僕は何ともないんですけど、クルーの方にケガをした人があって、その治療の手伝いをしていました。」 「へぇ、そういうのができるって、何かかっこいいよね。」 「ついでにオレの体質も何とかしてくんない?」 「ああ、えっと・・それはちょっと難しい、ですね。」 「マジメだね、ドクター。冗談よ、冗談。」 「ところでジキル。これから何か予定が?」 アランが尋ねた。 「いいえ。特に、何も。」 「じゃあこれから我々とお茶でもどうかね?ネモ船長に呼ばれているんだ。」 するとジキルは、ぱあっ と顔を輝かせる。 「はい!それは、ゼヒ。」 「よし、決まり。じゃ、行こう!」 そして4人は歩き出す。 しばらくすると向こうからドリアンがやってきた。 「やあ、皆さん、ごきげんよう。」 「やあ、グレイ。」 「Hi.」 「よっ、色男。優雅にお散歩か?」 「こんにちわ、Mrグレイ。」 「で、こんなにお供を引き連れて、ドコへ行くんだい?アラン。」 トントン、と自分の肩をステッキで叩く。 「ネモ船長のお茶に呼ばれててね。」 「へえ、何かにぎやかで楽しそうだね。私も同行して構わないか?」 「ああ、構わんよ。」 どうぞ、と手で列に加わるよう、促す。ドリアンは恭しくかしこまるとちゃっかりアランの隣を歩き始める。 それを見てトムは、口を尖らし、負けるか!とばかりにアランの隣に陣取ると、2人の会話に割って入っていく。 「しっかし、こんだけメンバーが揃ったんだし、どうせならミナも来ればいいのにな。」 「そうですねぇ。」 3人の後方でスキナーとジキルがそう話していると、 「呼んだ?」 「うわっ!!×2」 いきなり2人の背後からミナが現れたのだ。 「あっ ミナ♪」 「やあ、ミナ。」 「いつの間に来たんだ?」 「廊下から騒がしい声が聞こえてきたから何かと思って。」 麗しのデイ・ウォーカーはスカーフを払うと涼しく答えた。 「それで、Mrクォーターメイン、こんな大所帯で一体何を?クリケットをするには人数が足りないようだけれど。」 「・・ここじゃあ十分な場所も無いしな。」 「ねえ、ミナ。今時間ある?僕らこれからネモ船長の部屋にお茶しに行くんだ。こうなったらみんなで行こうよ。」 「・・・いいわ。丁度お茶の時間だものね。」 「決まり!何だ。結局メンバー全員になったね。」 「こんなに大人数になるとはな・・まあ、いいか。」 こうして、ぞろぞろと6人のエクストラオーディナリーな面々はネモの部屋を目指し、歩いていった。 一方、ネモと、彼に長い間仕えている部下のジャックは、アランとトムが待っているであろうネモ船長の部屋に向かっていた。ジャックは銀色のカートを押している。その上には透明なケースに入っているイシュメイル御自慢のスイーツとティーポットやカップ、沸かしたてのお湯・・・・が、3人分。 「・・しかし、イシュメイルも自分で作ったケーキ位、自分で持っていけばいいのに。ケーキが作れる海の男がいたっていいじゃないですか。ねぇ、船長。」 「私もそう言ったのだがね。どうしてもこれだけは恥ずかしがって言う事を聞かん。」 「船長は見たことあります?アイツがケーキ作ってる所。」 「いいや?」 「厨房の扉を閉め切って作るんですよ。でも前にこっそり覗いたことがあるんですけどね、普段の通りムッツリした顔で作るんです。」 「ほお。」 「でもね、最後に皿に盛って、ソースやらフルーツやらで飾りつけをして、完成させたその瞬間に、にやっ と笑うんですよ!!思わず声を出しそうになりました。」 その時のことを思い出し、面白そうに笑いながら話すジャック。 「イシュメイルが・・笑う?それは一度見てみたいものだな。」 「今度一緒に覗きましょう。」 「・・しかし、のぞきとなるとな・・・」 そうこうしている内に、2人は部屋の前にたどり着いた。 ネモが扉に手をかけ、開けると、 「あ、船長!遅いよー!で、ケーキは?ケーキは?」 「ハイ!キャプテン。で、お茶は?菓子は?」 「あ、ネモ船長。お邪魔しています。」 「やあ、船長。美味しい紅茶を頂けると聞いたのだが?」 「こんにちわ、ネモ船長。今日はお招きありがとう。」 「・・・ここに来る途中、皆と会ってな。せっかくだから連れて来た。」 ネモは目を丸くした。人数がいきなり増えている。というか、フルメンバーだ。 カートの上のものと、部屋の中を見比べ、小さく息を漏らす。 「あー、こりゃ足んないですね。明らかに。」 「・・・ジャック、すまないが追加を持ってきてくれないか?」 「ハイ、大至急。」 そう言って走っていくジャック。ネモはとりあえずカートを中に入れた。 「こうなるとは予想していなくてね、すぐに追加を持ってくるからもう少し待ってくれ。」 「紅茶はガマンできるけど、そのケーキの方はガマンできないな。ああ、ソレすっごく美味しそうじゃん!先に食べちゃダメ?」 「先に食べるだなんて、アメリカ人はマナーも知らないのか?それとも単に君が知らないだけか?」 「ムッ 僕だけならまだしも、アメリカ人を侮辱するのは許せないな。」 「ドリアン、今のは失礼でしょ。」 「こら、そこ、喧嘩はいかんぞ。」 「あれ、ケーキが浮かんでますよ。」 「こら!スキナー!何をしてる! ネモ、ヤツを止めろ。」 「あ、ああ、いつの間に・・Mrスキナー、ドコだ?」 「そのミルクをかけるのよ、船長!」 「ホラ、君の大好きなケーキがとられるぞ」 「ぐぅぅ・・ヘンリー!俺にもケーキを喰わせろ!!」 「あ・・・こんな時に・・あ、頭が・・・」 「アラ、大変。ジキルが・・・」 「こら!スキナー!1人だけずるいぞ!!」 「HA Ha〜n!オレは泥棒だぜ?早いモン勝ちよ!」 混乱する部屋。そこへ、 「Shut up !! Boys !!! Q- U- I- E --T !!!!」 血管を額に浮かべながらアランの放った怒声は、ノーチラス号全体に響き渡ったという。 今日もステキだ お茶会日和 END |