冒険者らはかく悟りき



 ドゥ・・・・ン…

 アランのライフルが唸る。
  数秒後、遥か向こうの海面に漂う的が弾け飛んだ。

「お見事。」
 その様子を側で見ていたネモ船長が手を叩く。
「ありがとう、船長。」

 この日、ノーチラス号は定期メンテナンスの為、一時浮上していた。
 その時間を利用し、アランはライフルの練習を、ネモはその手伝いをしていたのである。

「800・・いや、900メートル位離れているのでは?どちらにせよ大したものだ。」
「・・それでも年には勝てない。昔と違って今はコレが無いとな。」
 そう苦笑いをして眼鏡をクイッと上げた。
「それも自然の摂理だよ、Mrクォーターメイン。 もう一度?」
「ああ、頼む。」
 ネモがレバーを引くと、 ドォン・・ という轟音と共に的が飛んでいった。

 ドゥ・・・・ン…
 またしても的が弾け飛ぶ。
「ふむ、10発中全て命中だ。さすが伝説の冒険者と呼ばれるだけはあるな。」
「・・世間の連中が勝手にそう呼んでるだけさ。私は・・そんな大した人間じゃないよ。・・・本当だ。」
「・・・・」
 ガチャリ アランが再び弾を込めた。
「船長、君も撃ってみるか?」
「いや、今回は止めておこう。・・そろそろ時間だ。どうだね、私の部屋でお茶でも。」
「頂こう。」
 アランは込めた弾を取り出し、銃を背負った。


「Mrクォーターメイン。どうして今回の仕事を引き受けた?向こうで隠居生活を送っていたのだろう?」
 部屋へ向かう途中、ネモが尋ねる。

 彼は知っていた。Mに呼ばれてこの仕事を引き受けた際に、チームのリーダーとしてアラン・クォーターメインを迎えるとの説明を聞いた。その時に彼の経歴を教えてもらっていたのである。
 冒険中に妻や息子を亡くし、アフリカでひっそりと暮らしていたこの男は、どうしてこの依頼を引き受けたのか。愛国心からでは無いだろう。では・・何故?

 ネモの問いにしばらく無言で歩き続けるアラン。
「Sorry, Mrクォーターメイン。不躾な質問だった。」
「・・・ネモ、君は何故ノーチラス号に?海の底の航海は危険なんだろう?」
「それは・・確かにそうだが、私は・・」
「ネモ」
 アランは人差し指を口元で立てる。「言うな」のサイン。
「私も似たようなモノだよ。取り巻く状況や歩んで来た道のりは違うがね。」
「・・我々を突き動かすものは・・同じ、という事か。」
「その通り。・・しかも今回は私の友人達も巻き込まれ、殺された。この借りは返さないと申し訳が立たん。」
 拳をぎゅっと握り締める。
「私たちは、似た者同士なんだな。」
 髭を撫でつけながら、ネモは納得げに呟いた。 すると、
 ダダダダダダダ・・・
 丁度2人が差し掛かった曲がり角から何者かが走る音が聞こえてきた。

「アーーラーーンーー!!」
「うわっ!」
 走ってきたのはトム・ソーヤー。彼はいきなりアランに飛びついた。アランはよろけながらも何とか踏みとどまり、その手は、飛びついて来たものを落ちない様に支える。
「・・・これがアメリカで流行のあいさつかね、坊や。」
 眉をひそめるアラン。しかしそんなのは気にもせず、
「そ!さらに親しい人にはこうするのさ!んーっ!」
「ぎゃっ!」
 トムは胸の辺りで抱えているアランの頭にキスをした。
「《ぎゃっ》って何さ、《ぎゃっ》って。親愛の印なのに。」
「気持ちだけ受け取っておくよ。だが普段のあいさつは英国式にしてくれ。」
「じゃ、アフリカ式を教えてよ。」
「英国式をマスターしたらな。そろそろ降りてくれんか?」
 ストン とトムはアランから離れた。
「や!ネモ船長。」
 軽く手を挙げてあいさつをする。
「やあ、Mrソーヤー。君はいつも元気が良いのだな。船員たちに見習わせたい。」
「本当!?ねっ、アラン、今の聞いた?」
「ネモ、こいつに世辞は無用だ。調子づくだけだぞ。」
「いや、Mrクォーターメイン。若者は元気に振舞うのが一番だ。何より見ていて気持ちが良い。Mrソーヤー、我々はこれから午後のお茶にするのだが君もどうだね?」
「もちろん、行くよ。」
 目を輝かせて答えるトム。
「では、イシュメイルにケーキでも用意させよう。ああ見えて彼はスイーツ(お菓子)作りが上手いんだ。おっと、私が言ったという事は内緒にしてくれ。彼はこの事を知られるのを恥ずかしがるんだ。」
 指を立て、軽くウインクする。
「わかった。誰にも言わない。」
 そう言うと指を立て、ウインクを返した。
「結構。では、行こうか。」
「ケーキ、ケーキ!」
 弾む様に歩き出すソーヤー。後ろから2人はその様子を眺めていた。

「・・・甘くないか?」
「砂糖が控えめなのも用意している。」
「いや、ケーキじゃなくて。」
「ああ・・・それは君の方だろう。」
「!」

「ちょっとー!2人とも!早く行こうよー!」
 後ろを振り返り、トムが叫んだ。
「ああ、今行く。」
 ネモが早足で歩き出した。
「・・・・」
 続いて仏頂面でアランが歩き出す。

 今日は楽しいお茶会日和。 

                                                         END
 
あとがき
 ハイ、2作目のリーグSSですねー。ご要望通り(笑)、巷で人気急上昇中のネモセンチョのご登場です。
 ネモにせよ、アランにせよ、原作と映画は微妙に設定や性格が違っておりまして、都合の言いようにミックスさせております。あしからず・・・。
 今回のSSは、原作にあったワンシーンをヒントに書いてみました。あのグリフィンをとっ捕まえる際に、アランとネモが一つの部屋に押し込まれて、そこで話をする、というシーンがあるのですよ。その辺をちょっと意識してみました。アランが「船長」と呼んだり「ネモ」と呼んだりするのは、まあ、その場のノリや雰囲気で変わっています。
 冒険心と絶える事の無い好奇心。それが長生き彼らの原動力になるのです!! と、いう事が書きたかったのです。後半のトムアラはオチをつけるためのオマケのような、単に自分が書いてて楽しいだけというか・・・。それで勝手にイシュメイルは名パティシエ、という事にしてしまいました。原作のイシュメイルはもうちょっとふくよかですよね。映画版はトールでスレンダーでストイックで忠実な感じがして好きです。・・・メインはアランとネモの方向で。