リーグde裁判


<ガンガン>(木槌を叩く音)

「それでは、只今よりトム・ソーヤー氏の裁判を執り行いたいと思います。裁判長は私、ミナ・ハーカーです。皆さん、宜しくお願いします。では、まず検事、被告人の起訴内容を読み上げてください。」

「OK、スイート・ハート。君の頼みとあらば喜んで。」

「検事、ここは法廷で、私は本法廷の裁判官です。不適切な発言は慎むよう。」

「申し訳ない。では、読み上げる。被告人、トム・ソーヤー氏はアラン・クォーターメイン氏に対する一方的かつ不当賄賂贈与罪、および人の恋路を邪魔した罪、に問われています。ちなみに起訴したのは私です。」

「チョッと待て!!何だよ、その聞いたことも無いような罪状は!」

「被告人、私の許可無く発言しないように。では、Mr.グレイ。まず最初の証人を。」

「よろしい。証人は、私です。」

「では、証言をどうぞ。」

「はい。まず、不当賄賂贈与罪について。被告人、トム・ソーヤー氏は彼が所属する秘密結社とやらの仕事で密かにロンドンに入り込み、尚且つ、ファントムの一味の中に紛れ込んだ。その際私の屋敷で派手な銃撃戦があったのは皆さんも御存知だろう。問題の行為は銃撃戦が終わった後に起こった。被告人がチームのリーダー、アラン・クォーターメインに対し、自分を仲間に入れてくれるよう、賄賂を贈った。しかも皆が見ている前で堂々と。裁判官、とりあえず以上です。」

「わかりました。では、弁護側、尋問を・・・アラ、被告人の弁護士はどこに行ったのかしら?」

「国選弁護人なら追い返したよ!素人っぽかったし。それに、自分の弁護は自分でやる!!」

「・・・いいでしょう。では、尋問をどうぞ。」

「と、いうかドコからツッコんでいいのかわからないな!!検事!まず、僕はアランに賄賂なんて贈った覚えはないぞ!!」

「ふうー、やれやれ(苦笑い)しらばっくれるのが上手いな。さすがまがりなりにも諜報員。シラの切り方も養成学校で教わったか?」

「異議有り!!そんなゴタクよりさっさと質問に答えろ!!」

「異議を認めます。検事、余計な事は言わない様に。これは2度目の警告です。」

「・・・よもや忘れたとは言わせないぞ、boy。戦いが終わった後、チームの中に空きがある、という事が話題に上った。君が課せられた任務を遂行する為には1人で動くよりもチームに入った方が楽だ。だから君は我々の一員になりたかった。それでリーダーであるMr.クォーターメインに銃を持たせてこう言った。『僕は2丁持ってるから、1丁あげるよ。』と。君は不当な賄賂をMr.クォーターメインに贈ろうとしたんだ。」

「・・・《不当な賄賂》って何だよ。《賄賂》は元々不当なものだぞ。」

「・・・・〈ムカ〉このじゃじゃ馬アメリカンが、人の上げ足を取る様なコトを・・・」

「被告の言うとおりですね、Mr.グレイ。意味が2重になってるわ。それと、これが3度目の警告です。次は退廷を命じますよ。」

「 (へん!ザマーみやがれ!エロイモータル)えっと、話を戻します。その、弁護人が言った賄賂って、銃の事ですよね。この改良型ウィンチェスター。これは賄賂なんかじゃない!本当に2丁あったから、アランに1丁あげようと・・・」

「異議有り!つい数分前に会ったばかりのアランにそんな大事な銃を無償で上げようなんて不自然ではないですか?・・さすがの私でも初対面のレディにいきなり指輪を送るような真似はしないね。」

「確かに、初対面の相手にいきなり贈り物、というのも不自然ですね。Mr.ソーヤ、なぜ、銃をMr.Qにあげようとしたのかしら?」

「え、えっと・・・そ、それは・・(どぎまぎ)」

「フフフ・・・被告人が答えれない様なので、親切なこの私が代わって答えよう!」

「!Mr.グレイ、御存知なんですか?」

「はい、その通り。その理由こそが、私が挙げた2つの罪状のもう一つに当たるのです。」

「発言を許可します。検事、その答えとは?」

「さもありなん!お答えしよう!被告が初対面のMr.クォーターメインに銃を与えようとしたのは・・・・ズバリ!被告人、トム・ソーヤーがアラン・クォーターメイン氏に一目ぼれしたからです!!

「何ですって!?」

会場:《ざわざわざわ・・・…

「い、異議有り!!何を証拠にそんな事を!?」

「そ、そうですね。Mr.グレイ、その根拠は?」

「〈うやうやしく一礼〉 ふっふっふ、裁判長、それこそが私が訴えたもう一つの罪、人の恋路を邪魔した罪、なのです。」

「ちょっと待った!!だからサ、その訳のわからない罪は何だって言うんだよ!!」

「・・・いいえ、被告人、今は黙ってMr.グレイの話を聞きましょう。なぜなら、あなたが『会ったばかりのMr.クォーターメインに銃を与えようとした事』『あなたがMr.クォーターメインに一目ぼれしたこと』は関係があります。それをまずはっきりさせましょう。」

「さすが裁判長、スルドイ観察眼にエビアンのごとく澄んだ頭脳だ。」

「・・・いつの間にか誉め言葉が下手になりましたね、Mr.グレイ。まあ、それはともかく、話を続けて下さい。」

「Oui, mon cherie. いいですか、被告が銃をアランに与えようとした。それは二つの意味合いがあったのだ。まずひとつが自らが『リーグ』のメンバーに入る為の賄賂として。そしてもうひとつが一目ぼれしたアランに自らの気持ちを伝える為。まさに一挙両得、一石二鳥、一粒で二度美味しい・・・」

(・・・ドリアン、しばらく会わない内に性格変わったわね。)

「異議有り!!どうして『銃をあげる事』が一目ぼれした証拠なんだよ!!」

「そうですね、普通、惚れた相手には花とかアクセサリーとかが一般的ですね。」

「チッチッチ、確かに、普通はそうだ。だが、被告はアメリカ人の(無鉄砲な)青年だ。そして相手は英国の伝説的冒険家、アラン・クォーターメイン氏・・・男だ。世間一般的には普通の恋ではない。第一アランが花や指輪を男から貰っても嬉しいどころかしかめっ面をするだろう。だから被告は男でも受け取りやすい、尚且つ彼の趣味でもある銃をプレゼントとして選んだのだ。」

「・・・なるほど。(表向きは)男色御法度の英国ではそれはありえますね。被告人、どうですか?反論は?」

「え!えーっと・・・その、僕。あの・・・」

「反論は無いようだね。」

『異議有り!!』

「だ、誰ですか!?あ、貴方は・・・?」

「や!オレだよ、被告人の国選弁護人、ロドニー・スキナーだ。一度は断られたけど、あまりにも見てられなくてな。オレもこの裁判に混ぜてもらうぜ。いいよな?ソーヤー。」

「あ!スキナー!!・・・いいの?僕、一度断ったのに・・・」

「なーに、気にすんな!その代わり、こないだのポーカーの負けをチャラにしてくれよ。」

「この状況を何とかしてくれるならかまわない!」

「OK!商談成立だ。と、言う訳だ。いいよな、裁判長?」

「・・・いいでしょう。あなたは元々Mr.ソーヤーの国選弁護人ですからね。」

「サンキュー!裁判長。で、早速異議有りだ、グレイ。アンタの言い分では、ソーヤーが銃を贈った、それが自分の気持ちを伝える手段だ、という事だったな。だが、どうして『銃を贈る事』『ソーヤーの気持ちを伝える事』なんだ?オレは銃に関しちゃシロートだが、この銃、改造されてる以外に特別なモノは無いと思うんだがね。どうなんだ?この辺は。」

「フン、・・・アメリカ坊やよりは少しはマトモな様だな。・・・裁判はこうでなくては。では、お答えしよう。『銃』について。この銃は単なる改造ウィンチェスターでは無い。この銃自体が被告人にとって『特別な』物なのだ。今からそれを証明しよう。」

「まさか、アイツが知ってる訳が・・・」

「被告はアメリカの諜報部から派遣された。ただし、1人でじゃない。仲間と一緒に来た。だが、残念な事にその仲間は調査中に命を落とした。そうだろう?Mr.ソーヤー。」

「・・・ああ、そうだ。」

「その銃は組織から配給されたものだろう?」

「・・・そうだ。僕らで改造したんだ。」

「その銃は、1人で2丁持ち歩くには大きすぎる代物だな。」

「ライフルは1人1丁。小銃は、希望すれば何丁でも。」

「よろしい。君はアランに銃を見せた時、『2丁あるから1丁あげようか。』と言ったね。それは、つまり、君の物ではなく、亡くなった仲間の分ではないか?」

「・・・・そうだ。」

「その銃は君にとって大事なものだった。大事な仲間の『形見』だったんだからな。『特別な』ものだったんだよ、弁護人。」

「くっ、何でアンタがそんな事知ってんだよ。」

「・・・綿密な調査の結果さ。Mr.スキナー。裁判長!私はさらにもうひとつ、彼がアランにホレたという証拠品を提出できる。この写真だ。」

「!!その証拠品を受理します。・・・これは!」

「・・・ソーヤーが、変てこな帽子をかぶって、顔半分を布で覆って、ウインクなんかしてるぜ。」

「あーー!こ、この写真は・・・い、いつの間に!?」

「ふっふっふ。この写真は私の屋敷の隠しカメラが捕らえた写真だ。日付と時刻は、リーグのメンバーが私をスカウトしてきた日。そして時刻はファントムとその手下が襲ってきた頃だ。ちなみに、チャプター6、映画開始から25分と31秒後の事だ。」

「(・・・映画開始?チャプター?何のことかしら)ああ、あの時の。」

「私は見逃していなかった。このウインク、アランに対して向けられていたものだろう!!」

「ち、違う!!あの時、自分は見方だって事を合図したんだ!」

「その通りだ。裁判長もアンタもあの場にいたからわかるだろう?コイツが反撃のキッカケを作ってくれたじゃないか!」

「異議有り!反撃のきっかけなどは今問題ではない。問題はこのウインクの目的だ。今となってはこのウインクが合図として送られたのか、アランに対するモーションなのか、それを断定する材料は無いのだよ。」

「チョッと待った!じゃあ、何でそんなモノ提出したんだ!」

「これが検事の法廷テクさ、見習うんだな、Mr.スキナー。確かにこのウインクがどういう意図を持っているかはわからない。だが、彼はこの時『アランにウインクを送った』という事実を明らかにしたかったんだ。」

「(チッ、上手いというか、卑怯というか・・・まるでどこかのカンペキ検事みたいだぜ)」

「・・・スキナー。悔しいけどアイツの言うとおりだ。証拠が、僕らには無い。裁判は、証拠がモノを言うんだ・・・」

「そろそろ出揃ったようですね。では、判決に移りたいと思います。」

〈し〜〜ん 一同、息を呑む〉

「それでは、判決を言います。判決は・・・」

《バタン》

「・・・お前達、何をやってるんだ?」

〈アラン、ネモ、ジキル入室〉

「・・・どうやら、これは西洋式の裁判の様に見えるが。」

「こんな時に裁判ごっこか?・・・しかも、Ms.ハーカー。あんた、そんなヅラまでかぶって・・・」

「本格的な裁判ごっこですね、あの、お似合いです・・・〈ぽっ〉」
※当時、裁判官は頭に白い大きなボリュームのある、(今の感覚で言えば)ちゃんちゃらおかしいヅラを(慣習的に)つけていた。(音楽室に貼ってあるバッハとかモーツァルトがつけているヅラをさらに1.3〜1.5倍のボリュームの物を想像して下さい。あのヅラです。)

!!!だ、黙っていれば気づかれなかったのに!!

「・・・グレイ先生。アンタがこの茶番劇の監督か?」

「まあね。ちょっと模擬裁判を、ね。」

「被告人席にいるのは、Mr.ソーヤー?そして、弁護士役がMr.スキナー、検事がMr.グレイなんですね。で、どちらが勝ったんですか?」

「いや、その、もう、お開きする所だったんだ。ね、スキナー。〈ゴスッ わき腹に肘鉄〉」

ぐえっ あ、ああ。まあ、そんなトコだ。(・・・後で覚えてろよ!)」

「せっかくやったのだから、判決を聞きたいな。その後に夕食にしよう。」

「同感だな。ソーヤーがどんなイタズラをしたのか知らんが、ここまで本格的にやったんだから、ちゃんと判決は下すべきだ。そうじゃないか?ミナ。」

「えーっと、その・・・ええ、そうね。判決を言い渡します」

「そ、そんな〜」

「賢明な判断だ。ミナ。」

「判決。まず、前者の罪について、被告を無罪とします。」

「やったー!×2」「何だって!?」

「・・・私が思うに、あの時のMr.クォーターメインの様子では、グレイ氏が仲間になろうがならまいが、被告を仲間に加えるつもりでいたと思われます。また、銃に関しても、結果的にはクォーターメイン氏は受け取らなかった。そもそも彼の性格からして賄賂なんて物は要求もしないでしょうし、受け取りもしないでしょう。・・・それに、あの銃は賄賂としては不適当な物と思われます。そして、ここ数日生活を共にして、被告は賄賂をクォーターメイン氏に贈る様な、そんな人物には見えませんでした。これが判決の理由です。」

「ミナ・・・(うるうる)」

「そして、後者の罪に関しては、こちらも無罪とします。」

「ひゃっほう!!×2」「な、何だと!!」

「・・・恋愛は自由です。例え法律があろうと国籍が違おうと、どんなものも、恋心を制限する事はできません。人の心を律する事が出来るのは、その本人のみです。心は何ものにも縛られるべきではありません。・・・少なくとも私はそう思います。・・・・Mr.グレイ。こういう事はフェアに行うべきものよ。あなたがリーグのメンバーに入れたのはどういう理由からかしら?」

「?そ、それは・・・」

「それが貴方の武器でしょう?せいぜい駆使してあの坊やと闘うのね。」

「・・・上手い事を言うね。」

「ありがとう。それでは、閉廷!!」

ガンガン》 木槌を打ち鳴らす

「何やらよくわからんが、無事終わったようだな。」

「うむ。Ms.ハーカー、あの最後のスピーチはなかなかのものだった。感動したよ。」

「ぼ、僕も感動しました!」

「ありがとう、ネモ船長、Mr.ジキル。」

「良かったな、ソーヤー。無罪になって。」

「ウン!ミナとアランのおかげだよ。」

「私が?私は何もしてないが。」

「いいからいいから。そういう事にしといてよ。」

「ヒデェな、相棒。オレには礼は無しかよ!」

「いやー、スキナーもありがとね。約束どおりポーカーの借金はチャラにするよ。」


〈食堂へ向かうメンバー。その途中で〉

「・・・坊や。」

「(ムッ)何だよ。」

「手加減はしないぞ」

「臨む所だ!」

 2人はにやっと不敵な笑みを浮かべると、再び廊下を歩き始めた。


《一応終わり》
 冗談です。ジョークです。リーグ熱と逆裁熱が融合した結果ですとも。
 続いてしまいましたが、そんな長くなりません。後2,3回で完結する予定です。
 思いついたキッカケは逆裁はもちろん、映画のワンシーンを観て思った事が原因です。
 コメンタリーだったか何だったか忘れたのですが、英国へ来た時、ソーヤーは仲間といたんですよね?(それがハック・フィン?・・・・自信なし)でもその途中仲間を失ってしまった。同じ銃を2丁持ってるのは、その形見なんだと思ったんです。で、形見って持ってて辛い事があるじゃないですか。だからひと目見て気に入ったアランになら、親友の形見を持ってもらってもいい、と思ったのかなあ、と。あの銃は信頼の証だと思っています。
 あのドリアン屋敷のシーンで、トムはアランに一目ぼれ。あの銃はその愛の証!!なんてヨコシマーな思いを抱いたので、こんな茶番劇ができたわけです。ジョークで書いた割には結構長くなってしまいました。


おまけ

「ねえ、ミナ。さっきの判決だけど、その、助かったよ。(アランに)バレない様に気を使ってくれたんだね。」
「ああ、アレ?私なりに答えを述べただけ。・・・こう見えても、心は広いんだから。」
「え!」
「相手はあのドリアンよ。がんばりなさい、坊や。幸いMr.Qはあなたを気に入ってるみたいだから。少しは有利なんじゃない?」
「・・・うん!ありがとう、ミナ。」

 そう言ってミナの頬に素早くキスをすると、ソーヤーは笑みを浮かべながら駆けて行った。