カッコ良い人だなあ。 これがライリーが初めてイアンに会った時の感想だ。 会社を辞めて、ベンの相棒として宝探しを初めて数年。 新しい資金提供者が現れた。それが彼だった。 輸入業とか株とか色々やっているらしい。 ベンがやっている事は結構業界の中では(色んな意味で)有名で、その噂を聞きつけて協力を申し出てくれたらしい。 僕が言うのもなんだけど、変わり者だよね。 そんなこんなで、週に1,2回は彼の豪邸に行ってこれからの計画を相談したり、手がかりについて検討したりするようになっていた。 「・・・ねえ、イアン。ひとつ聞いていい?」 「ん?何だ。」 「ジムとか行ってるの?」 突拍子もない質問に一瞬目をまるめるイアン。 だが、 くすり と少し笑うと、 「たまにな。体は鍛えておかないと劣る一方だ。だが、何でそんな質問を?」 そう答えてくれた。 「いやさ、けっこうイイ体してるなー、と思って。もしかして、元軍人?」 その質問に、イアンの仲間達がぴくりとした事に気がつかない。 「ああ。軍にいたこともあった。」 「へえ、陸軍?海軍?空軍?」 「陸軍だよ。」 「何か中尉って感じがするな。」 「・・・微妙な地位だな。所で、お前はいつもパソコンを持ってるな。そんなに好きか?」 「もちろん!コイツがあれば何だって出来る!」 そう言って愛用のノートパソコンをぽんぽんと叩く。 「イアン、そいつはライリーの恋人さ。四六時中一緒にいないと気がすまないんだ。」 横からベンが茶々を入れた。 まったく、余計な事を。 「恋人じゃないよ、大事な相棒さ。」 「ヒドイな。僕はお払い箱か?」 「ああ、そうさ。たった今からね!!ハイ、バイバイ!」 大げさに眉を動かし、コミカルに手振りをする。まるでコメディアンの様だ。 そんなおどけたライリーを見て、皆が笑う。 そんなこんなで今日の打ち合わせが終わり、ベンとライリーはイアンの家を出て車に乗り込もうとすると、イアンが小走りでやって来た。 「どうした?イアン。」 「いや、今日は土曜だし、どこか飲みに行かないかと思って。」 「ホント!?行く行く!連れてって!!」 まっさきにライリーが名乗りをあげる。まるで小学生のように。 「ああ、お誘いありがとう。でも、僕はいいよ。ちょっと読みたい文献があってね。また今度。」 「そうか、残念だ。アンタが酔うとどう暴れるのか見たかったのに。」 「それはこっちのセリフだよ。それじゃライリー、イアンに迷惑かけるなよ。」 「わかってるよ、ママ。だからとっとと帰って。」 しっしっ と追い払うようなジェスチャーをする。ふらふらと手を振ってベンは車を走らせた。 「じゃあ、行くか。」 「うん!」 そうして軽やかに歩くイアンの後を、ひょこひょこと弾む様にライリーが後をついて行った。 さて、感じのいいバーで飲み始めてから早3時間。 初めはビールで始まり、フットボールや野球について話していたが、ビールがカクテルに。カクテルがワインに。ワインがウイスキーに。水割り⇒ロック⇒ストレート。 ワイン辺りまで顔の変らないライリーを意外に酒に強いと思っていたら、勘違いだった。 ライリーは後から来るタイプであり、尚且つ自分で自分の限界を知らなかったのだ。 ウイスキーに入った辺りでべろんべろんになるライリー。 とろーんとした眼つきでイアンの肩に手を回し、顔を寄せては十数年来の友達のように話しかける。そのカラミ方がまたしつこい。 「でサ!国防総省のメイン・コンピュータまれあろチョッろっれろきに、ケータイが鳴ってック・・・」 「おいおい、飲みすぎだぞ、坊や。」 「なんらってぇ!ぼかぁぜんれんよっれらいろ・・・きゅ」 「きゅ?」 イアンが眉をひそめると同時にライリーはカクンと頭を落とす。 「うわっ」 重力に従ってライリーの上半身は下へ落ちる。それを慌てて抱きとめるイアン。 「・・・まったく、困ったな。」 自分の鎖骨辺りに頭を預け、わずかに寝息を立てる新しい仲間を見下ろした。 どういうわけか、子犬を連想させるような顔だ。 「起こすのも可哀相だしな・・・」 無意識にその茶色い頭をぽんぽんと撫でながらどうしたものか考える。 すると うーん とライリーが小さくうなり、額を摺り寄せた。 「・・・・・」 送ってやろうか。 このままでは周りからあらぬ誤解を受けないとも限らない。 そうしてイアンは勘定を払うとライリーを背負い、バーを出て行く。 「・・・家を知らないな。」 タクシーと止めようと大きな通りへと向かう途中、一人ごちる。 仕方ない。家へ連れて行くか。しかし、 「こんな風に人の面倒をみたのは久しぶりだ。」 そう呟いて微かに笑う。 いつもとは違うこの状況が少し楽しくなってきた。恐らく自分も少し酔っているのだろう。 部下と飲むのは楽しい。だが、こういうタイプの人間と飲むというのもまた、楽しい。 そう思っていると、肩にかかっているライリーの腕がきゅっと締まる。 「っと。・・・何か父親になった気分だな。」 苦笑いを浮かべながら、 よいしょ とライリーを背負い直し、イアンはまた歩き出した。 END |