ここは19世紀・ロンドン。 薄ら寒い霧のある夜空で、僅かな星の瞬きがかろうじて確認できるほどの夜だった。 そんな夜、ベーカー街221Bの部屋では、ワトスンがちらちらと燃える暖炉の炎を、うつろげな、と言うよりはぼんやりとした目で眺めていた。明らかに退屈している。 ホームズはと言えば、何やら黙々と分厚い書物とにらめっこの最中であった。 本から目を離そうとしない友人を、多少恨めしそうに見やるワトスン。 こういう夜はヴァイオリンの音色でも聴いていたい気分なのだけれど。 「・・・ワトスン、言いたい事があるならはっきり言いたまえ。その口は言葉を話すためにあるのだろう?」 本から目を離さないまま、ホームズがいきなり口を開く。 「・・・得意の推理なり観察なりで当ててみたらどうだい?・・・読書の時間が惜しいのなら別にかまわないけどね。」 まるで親にかまってもらえない子供の様だとわかっていながらも、つい、こんな返事を返してしまった。 しかし、今日は一件の依頼も電報も無く、天気が悪いせいか散歩に出かける気も起こらず、本を読む気にもなれず、ただただ、暇を弄んでいた一日だったのだ。 その退屈な一日のしめくくりのこの時でさえ、友人は話し相手にもなってくれない。 そういう気質なのは十二分にわかっている。だけども、何か釈然としないものを感じているのであった。 ふい、と窓の外へ顔を向けてしまった友人を見て、ホームズは短く息をついた。 やれやれ、いったい何をゴネているのやら。 「・・・ワトスン」 ホームズが本から目を離し、呼びかける。 「なんだい?」 本を置くと、ホームズはワトスンの向かいのソファに座る。 「・・・君は随分とヒマをもてあましているようだね。確かに今日は依頼もないし、散歩にでかけるような天気でもなかった。新聞にだって特に目を引く記事はなかったからね。」 「・・・そうだね。」 「私はこういう天気はキライじゃないんだよ。事件がなければ退屈で退屈で張り合いが無くて仕方の無い時期もあったが、今は違う。」 「?」 微妙に話がずれた事を不思議に思うワトスン。 「・・・君のせいなんだけどね、ワトスン。」 一呼吸おくと、ホームズは僅かに微笑みながらこう、答えた。 「え!?」 いきなりの展開に何が何やらわからない。どうしたらそんな話になるのか。 「君と日がな一日中なにもせずに過ごす、というのも悪くないって事さ。」 「それって、退屈って事じゃないのかい?」 「!何を言うんだ、ワトスン。君って人は鈍い時はとことん鈍いんだね!まったく。・・・まあ、そこが君のいい所でもあるのだけれど。」 そして、そんな所に惹かれ、救われているのだ。君は知らないだろうけど。 いつかは、知って欲しい。でも、今は、まだ。 そうやって不思議そうに私を見つめる姿が、あまりにも・・・真っ直ぐで。 「・・・ホームズ?」 明るい茶色の瞳がこちらを見ている。 「まあ、たまには何も無い日があってもいいだろって事さ。さて、退屈している友人の為に何か一曲弾こうか?」 そう言うと、ホームズはストラディバリウスのケースを持ってくる。 「いいのかい?じゃあ、そうだね、・・・君の好きな曲でいいよ。」 さっきまでの憂鬱で不機嫌な顔が、一変して明るくなる。 それでいい。君は笑顔が一番似合っているのだから。 「じゃあ、即興でなにか弾こうか。いいかい?」 「もちろん。」 霧深い倫敦の夜、寂しげな天気とは裏腹に、楽しげで弾むようなバイオリンの音が、ベーカーストリートから流れていた。 |
はい、ホムワト第2弾です。実はコレ、会社にいる時気分転換に書きました。 年末辺りのものですが、未完だったんです。それを今回書き上げました。 不機嫌なワトと、それをなだめるホームズ。・・・本当なら役回りが逆な気もしますが、これはこれで結構いいかも、とか思っています。 笑顔の似合う天然、といっても、やはりボロとかとは違いますねー、ワトスン。やはりキャラ付けが原作やら何やらでしっかりしているせいでしょうか。たまにはワトスンだって憂鬱になる時もあるのです。きっと脚がいたんだりしてるんですよ。 こういう事件とかと関係ないSSももっと書くようにしますー。 その内ホームズ系の同盟とかウェブリンク入りたいなあ。・・・でもそうなったら別ページにして、何かウンチク垂れたい気もします。・・・・一応シャーロキアンですのでw 腐れてますが(笑) |