「は!?」 ジョーは耳を疑った。 「冗談じゃないよ、ジョー。私は本気だ。」 「冗談じゃないにしてもそんなのお断りだ。どうして私が新米刑事の世話なんかやらなきゃいけないんだ?もっと適任者がいるだろう?」 「他に手が空いてる者がいない。頼むよ。たまには若い者と付き合うのも良い刺激になるさ。」 「いや、レオン、私は・・・」 さらに抗議を続けようとしたが、レオンはジョーに指を突きつけ、それを止めた。 「いいや、これはもう決まった事だ!いいか!、わかったな、お前が面倒をみるんだ!そして刑事のイロハを叩き込め。」 そう言い放つと茶封筒をジョーの胸に押し付け、足早やに去っていった。 取り残されたジョーはしばし立ち尽くし、天を仰ぐ。 「Oh…god…」 ジョー・ギャビランはロス市警の殺人課の刑事である。この道20年以上のベテランで、目にした死体は800人以上とも言われる「伝説の刑事」であった。 が、3度の結婚と離婚をし、別れた妻への慰謝料を払いつつ副業に入れ込んだりしている内に、すっかり変わってしまった。 今では昔ほどの情熱は無く、惰性で刑事をやっている、そんな感じだった。 そんな彼に上司のレオンが仕事を持ち込んできた。今度殺人課に配属される新人刑事の教育を担当しろ、との事だった。 冗談じゃない。鼻タレ小僧の相手などまっぴらゴメンだ。どうせ死体を目にしてモドしてしまうような、軟弱なヤツだろう。 「大体最近の若いヤツは・・・」 そう言いかけて止める。急に自分が年をとったように思えたから。 仕方が無い、こうなったらハラをくくろう。どんなヤツが来るか知らないが、適当に相手をしておけばいい。そうだ、これもある種の気分転換だ。そう思うことにしよう。 「初めまして!本日付けでこちらに配属になりました、K.C.コールデンです。よろしくお願いします!」 現れたのは長身で色白・栗色の髪の青年。その小さなブラウンの瞳の顔はまだ幼さが残っていて、どこか子犬を想像させる様な青年だった。アルマーニのスーツに身を固め、やや緊張そうな面持ちで挨拶してきた。 「私はジョー・ギャビランだ。君の教育担当を仰せつかった。よろしく。」 「Mrギャビラン。よろしくお願いします。」 握手を交わす2人。 「ジョーでいい。えっと、君の〈KC〉は何の略だ?」 「略じゃないです。そのままアルファベットで〈K.C.〉。KドットCドット、でK.C.です。」 「・・変わってるな。」 「ハイ、一発で読める人は珍しいですね。」 そう言うとK.C.はにっこり笑う。 おいおい、こののほほん坊やが殺人課の刑事だって?これは・・・持って1ヶ月かな。惨殺事件でもあれば一発でアウトかもしれない。 「ええと、それじゃあ、K.C.。」 ぱしん とひとつ手を打ってジョーは切り出す。 「ハイ。」 「基本的な事は学校で教わったんだよな?」 「ええ、多分。」 「じゃあ射撃にでも行くか。最近サボリ気味でな。」 「射撃・・ですか。あー、やっぱり銃撃戦ってのはよくあるんですか?」 怖々と聞いてくる。そんなK.C.の顔をチラリと見ると、ジョーは口の端を上げた。 ちょっと脅かしておこう。 「ああ、モチロン。ここをどこだと思ってる?ロスだ、ハリウッドもある。銃撃戦のひとつやふたつ、日常茶飯事さ。」 コレで怖気づくようでは殺人課の刑事なんてやっていられない。さあ、どう来る? 「へぇ〜。やっぱり刑事たるもの、一度は憧れますよね。映画みたいなハデな銃撃戦。僕、射撃には割と自信があるんですよ。」 そう言って、のほほんと笑みを浮かべながら指で銃の形をつくり、片目をつむって撃つマネをする。 意外な反応だ。案外見かけ通りの坊やではないのかも。 そうして2人は署内の射撃場にやってくる。 「それじゃあ、K.C.、お手並み拝見といこうじゃないか?」 「OK。ジョー。」 自信ありげに微笑んだ。 スッと立ち、ホルダーから銃を取り出し、構える。 ・・・警察学校で教わった型どおりの構えだな。 狙いを定め、集中する。 ドゥン 一発目が放たれる。次いで、 ドォン ドォン ドォン ・・・・ 続けて発砲する。 どうやら15発全て撃ち尽くしたようだ。銃口からうっすらと煙が昇った。 「・・・・」 「・・・・」 「K.C.」 「ハイ?」 「射撃は得意だと言ったよな。」 「その・・・つもりなんですけどね。」 「コレでか!?」 ジョーが手で指した方向を見ると、黒い、人の形をした的には1発の銃弾の後もなく、その周りの白い部分に数発、後は全て外れたようだ。 「おいおい、しっかりしてくれよ。この腕で銃撃戦だなんて、死にに行くようなもんじゃないか。」 「練習と実戦は違いますよ。」 「実戦の為の練習だ、坊や。まだ死にたくないだろう?」 「もちろんです!」 「なら、毎日練習だな。」 「よろしくお願いします!」 「? 私が教えるのか?」 「だって、僕の教育係なんでしょう?部長にもあなたから刑事のイロハを教われと言われました。」 「レオンめ・・・」 新人の教育と子守を同時に押し付けられた気分だ。 もうひと文句言ってやろうと思ったその瞬間。 チャー ・チャ・チャララ チャー ・チャ・チャララ ・・・・ ジョーの携帯が鳴る。 「ハイ、ギャビランだ。・・・あ、ああ。・・・」 副業関係の電話であった。 1分もかからない内に電話を切る。 「《マイ・ガール》ですよね、その着メロ。」 K.C.が携帯を指差しながら聞いてきた。 「そうだが、よくイントロだけでわかったな。」 「好きなんです、その曲。ホラ、《マイ・ガール》って同じタイトルの映画があったでしょう?あの映画割と好きなので。」 少し意外だった。この位の年の青年がイントロだけでこの曲がわかるとは思っていなかったから。 ジョーはなぜだか急に親近感が湧いてくるのを感じた。 うん。人は色んな一面を持ってるモノだからな。この坊やが本当はどんな人間か知りたくなった。 もう少し、面倒をみてやってもいいかもしれない。 「・・・歌ってるのは《テンプテーションズ》だ。ところでK.C.。」 「何ですか?」 「射撃の腕の他に、何か隠してる事は無いのか?」 「ええ・・・っと、もう無いですよ。」 「そうか、じゃあ次は死体置き場の場所を教えよう。丁度今朝、ホトケが運ばれてきてな、刺殺死体だ。腹と首をバッサリとやられた。まだ検死に運ばれてないから見学に行こうじゃないか。」 途端にK.C.の顔がわずかに歪む。 「えっ、いえ、・・その、ま、まだ射撃訓練しましょうよ、ジョー。」 「射撃訓練はいつでもできる。ホトケは今しか見れんぞ。」 グイっとK.C.の腕をつかむ。 「あ、わかりました、言います、言いますよ。実は死体もちょっと苦手で・・」 「ちょっと?」 「とっても苦手なんです!写真を見ただけで具合が悪くなりました。」 「じゃあ、尚更早い内に慣れておかないとな。実物は写真よりカラフルでリアルだぞ。臭いもある。」 ジョーは楽しげに、そして意地悪そうに笑みを浮かべながら、言い訳を言い続けるK.C.の腕を引きずるようにして射撃場を後にした。 その後、死体置き場でナマの死体に面会し、卒倒したK.C.を今度は本当に引きずりながら医務室まで連れて行くジョーの姿が多くの警官たちに目撃された。 それを見ていたレオンが、にんまりと笑いを漏らし、その時既に新しいコンビを決めていた、という事はまだ誰も知らなかった。 おわり |
あとがき 鑑賞してその日に書き始め、翌日に仕上げました。『ハリウッド的殺人事件』、ジョー&K.C.の初めての出会いです。映画では組んで3ヶ月、と言う事ですが、K.C.が新米ってことは、きっと初めはこんな感じだったのでは?と、かなり捏造っぽく書きました。まだためらいがちに「ジョー」と呼ぶK.C.。話し方もまだ丁寧です。これからちょっとずつ親しくしていこうと思ってます。 ジョーとK.C.は純粋にコンビで好きですね。年の離れた友達。割とプライベートな事まで突っ込んで話してたじゃないですか。夜の生活の事とか(笑)こう、刑事でコンビっていうと、《お前と一緒に死んでやる!》ってカンジのものが多いですが、この2人なら《お前の分まで強く生きるよ》とか言いそう(笑)。そんなナチュラルな2人が好きです。映画中に、ジョーがK.C.を指して、kidとかsonとかセリフの端々に聞こえていたのがまたいいなあ、と。 今回は出会い編ですが、その内組んで1ヶ月とか2ヶ月、などなど書けたらいいなあ、と思っております。 ちなみに、レオンとは2人の上司です。ところで、ジョーとK.C.の好きなチーズバーガーのトッピング、覚えてる方、いますでしょうか?忘れてしまいました・・教えてください〜!! |