−いつかの神木村− 季節は春。 村には桜が咲き、春風が遊ぶ度にひらひらと花の舞が人々の目を楽しませている。 寒い季節を越した人々は、次第に暖かくなっていく日々を実感し、今年もまた心晴れる季節を無事に迎えられた事を御神木に感謝するのだった。 〜♪ 「ん?」 畑を耕している青年がふと顔を上げる。 「どうした?ミカンの。」 「あ、いや・・今、笛の音がしなかったか?」 「ああ、最近たまに聞こえるよな。でも、何処で誰が吹いてるのか誰もわからないんだよ。」 「・・・へえ。でも、悪いモンじゃないよな。」 「ああ。前に、ウチの猫が他所の猫とケンカしてる時にあの音が聞こえてきたんだが、不思議な事にピタっと大人しくなってなあ・・・」 「コノハナ様の力かな?」 「そうかもな。」 そうして2人は畑仕事に戻る。 やがて日は暮れ、夜の帳が村へ降り、濃紺の春夜に見事な黄金色の月が昇った。 御神木のたもとに祀られている大神像は、月光を浴びて僅かに輝いている様に見える。 かつてこの村を救った伝説の神。 御神木に抱かれるように、今日もその像は村を優しく見下ろしていた。 季節が巡り、今年も桜の花を咲かせた御神木・コノハナ様。 夜風が吹くと無数の花びらが空へ吸い込まれていく。空に舞う花びらの中に紛れていたかの様に一人の青年が現れた。 青年は御神木の枝先に腰掛ける。不思議な事に、枝は一寸たりとも揺れなかった。 桜色の着物と紫の袴、頭には風変わりな飾りの帽子を載せ、これまた桜色の布が垂れている。 月に照らされた白い肌はまるで白磁の様で、宮中の殿上人よりも高貴なたたずまいをしていた。 青年はちらりと下を見ると僅かに眉を潜める。だが、すぐに気を取り直し、頭上の月を仰ぐと懐から笛を取り出した。 〜♪ この世の物とは思えない、美しくて優しい音色が澄んだ夜の空気に溶けていく。 〜♪ その音を奏でる青年の顔もどこか嬉しげ。 〜♪ さわわ と春風が音色を運ぶ。青年の想い人の元へ。 ひらり 音色に合わせて舞うかの如く、御神木から花びらが舞い降り、懐の大神像に静かに落ちた。 「フフフ、サンキュウだよ、サクヤ様。ユーもなかなか粋な事をしてくれるね。」 青年の声に応えるかのように、枝が ざわ と揺れた。 「・・・聞こえるかい?アマテラス君。また、春が来たよ。これで何度目だろうね。」 「こうしてユーと一緒に夜桜を見ながら笛を奏でるのもナカナカ楽しいよ。」 「今宵のミーの笛は気に入ったかい?」 ふわり まるで花びらの様に青年が枝から飛び降りた。頭の布が宙に舞い、その隙間から ちらり と月の様な光が覗く。 すっ と大神像の側に降り立つ青年。いとおしそうに、でも、どこか悲しげに像に向かって手を伸ばした。途端に石の硬く冷たい感触が全身を巡る。 「…アマテラス君。ユーは優しくて美しいけれど・・時に残酷だね。だって、ミーをこんなにも、切なくさせる。」 そう呟くと、物言わぬ石像を抱きしめる。 数刻経って、青年は名残惜しそうに顔を上げた。 「…今日はそろそろおいとまするよ。こう見えてミーは忙しいんだ。また、来るよ。」 目を細めて微笑むと、大神像の頬に口付ける。 「…この位はノープロブレム・・だろ?」 僅かに頬を染めたその顔は、普段よりも幼く見えた。 「それじゃあね、また会おう、ベイビィ。」 別れの挨拶をすると、青年はふわりと宙に浮き、そのまま夜の闇に消えていった。 後に残されたのは黒く冷たい大神像と御神木。 月は静かに、そして優しく 全てを照らしていた。 終 |
あとがき や、やっちゃった・・・!! 大神。私の中では久しぶりに大ヒットな作品でした!! 何か恐れ多い気もするのですが、何やら想いがありあまって書いてしまいましたよ。 時代的には、ゲーム中の神木村より数十年前。だからミカン爺もまだ若いです(笑) 一応ウシアマです。本当はイッスン&アマテラスも大好物です! でも、ラストでああいう事知っちゃったら、ウシアマにも傾倒しちゃっても仕方ないですよね?あの物語。 何てステキなオハナシだったんだろう・・・と、サントラ聴く度にゲーム中の事を色々思い出して感動してしまいます。特に、『Reset』を聞いてると、歌詞とストーリーがリンクしちゃってもう・・・!! ただひとつ 願いがかなうのなら 時を越えて届けたい 変らない想いが あるのならば いつか 桜の下で それで桜の木の下で出会いましたもんね、イッスンとアマテラス。 イッシャクと白野威が出会って分かれて、その後継者のイッスンがアマテラスと出会って。 そして、ウシワカはウシワカで、時を越えて、ようやくアマテラスと再会して。変らない想いを抱いたまま、ようやく会えたんだなあ・・・ とか思うともう、たまらなくなるんですよ!!! そんな想いがとうとう今日形になってしまいました(笑)今の大神公式サイトのムービーに触発されました。 きっとウシワカは何度も何度も様子を見に来てたんですよ。笛を吹いて、御神木に腰掛けながら。(涙) 健気じゃないですか、いじらしいじゃないですか。 書き始めて、あっという間にできました!! この調子でイスアマなお話も書けたらなあ・・・ 060905 |