『悪戯』と言わせて


「利ー、いる?」

 ある日の昼下がり、慶次は居間へとやって来た。
 午前はヤボ用で町へ出て来たので、土産の菓子を手に叔父夫婦がいないか家中を歩き回っている。
 まつは慶次と入れ違いで町へ買出しに行ったらしい。

「お、いたいた。と・・・・しー…
 声のトーンが下がったのは、縁側で気持ち良さそうに寝ている叔父の姿が目に入ったから。
 そろりそろりと起こさない様に、静かに歩いて近寄る慶次。利家の側まで来ると、ゆっくりと腰を下ろした。

「・・・・」
 息を殺しながら利家の顔を覗き込む。とても一国一城の武将とは思えない程、穏やかで無防備な寝顔である。
 昔からそんな叔父の顔を見ていると、どうしても何かせずにはいられなくなってしまうのだ。
 にやりと子供の様に笑うと、まず慶次は利家の鼻をつまんでみた。

「・・・! ん、うぅーーーん」
 すぐに眉をひそめて唸り声をあげる利家、それを見てにんまりと笑う甥。
 次に慶次は頭に挿している羽飾りをひとつ取って、利家の頬や顎の辺りをさわさわと撫で回した。

「・・・?ふ・・ww」

 くすぐったいのであろう。僅かに口を開けて笑い顔になる。
 その顔が愛らしくもどこか間の抜けた感じで、慶次は口を押さえながら笑い声を噛み殺した。


「・・・ら、ぇ−じ、やめない・・か。うー・・・」
「ん?」
 どうやら自分の名前を呼んだらしい。
 慶次は利家に顔を寄せると、

「利ー」
 小声で呼びかける。

「んー…そぇがし、元気げん・・きぃー・・くー」
「オレだよ、慶次だよ。」
 続けて呼びかけてみる。

「け…じ。けーじー…」
 甥っ子の名前を呟くと、利家はにっこりと微笑んだ。

「!!」
 至近距離でコレかよ。
 不意をつかれて思わず頬に紅がさす。

「・・・・」

 しばらく利家の寝顔を見つめる慶次。利家はむにゃむにゃと何やら音を発しながら、夢の中。
 昔から、寝ている最中の叔父によくイタズラをしていた。
 こっそり顔に墨を塗ったり、上げた髪を下ろしてみたり、白粉や紅をつけてみたり。
 そうして眠りから覚めて、イタズラに気づいた時の叔父の驚いた顔を見るのが楽しかった。


 そう、これも悪戯。

 慶次はゆっくりと顔を近づけ、うっすらと開いている利家の唇に自分の唇を重ねた。
 上唇を軽くついばんで、離す。

 ・・・昼に団子、食ったな。
 それはほのかに甘かった。

 それでも尚起きる気配の無い利家を見て、どことなく残念な様子の慶次。

 もし、口づけの最中に目が覚めたら、利は何と言うだろう。どんな顔をするのだろう。
 顔を赤くして、困るんだろうな。そしてそれは、さぞ可愛く映るんだろう。でも、
 大好きだから、困った顔は見たくない。

 ふう、と ひとつ大きく息を吐く。
 利家の寝顔を見ている内に、自分も眠くなってしまった。暖かな午後の光が、慶次を眠りへと誘う。
 ごろり と利家の隣に横になると、目を閉じた。







「あら。」

 町から帰ったまつは、夫と甥の為に団子を買ってきた。
 一緒に一服しようと居間に入ると、まつは思わず目を細める。

「・・・起こすのは、もう少し後に致しましょう。」

 日の当たる縁側で、すやすやと寝息を立てる利家と慶次。
 まつはにこにこと笑みを浮かべながら、2人に薄手の布団をそっと掛けると、静かに部屋を後にした。   



                                                                 終わり



あとがき
 ほのぼの甥叔父でっす。無防備すぎる利と、寝込みを襲う慶次。
 昔は、衆道というのはさほど珍しいモノじゃなかったんですよ。
 だから、慶次が利家に恋心を抱いていても、今の様に近親相姦だなんだという罪悪感は無かったんじゃないですかね?
 でも、バサラの利はまつ一筋!だから、微妙ーにまつ姉ちゃんに申し訳ないとも思ってるKG。
 だから、これは恋ではなく、悪戯のひとつなのだと自分を納得させてるんです。”わるい たわむれ”と書いて”いたずら”と読む。深いですねぇ…
 でも、可愛いモノは仕方がないのですよ!!
 まあ、まつにかかれば、利家も慶次も『手のかかる前田家の殿方』ですからね!

                                                            061014


 ≪おまけ・あとがき劇場≫ 〜戦国道珍道中・壱〜

いつき: ん?あそこにいるのは・・・
謙 信: おや、そなたはのうみんのむすめ。どうしました?
いつき: おら、はだかんぼうのお侍さんトコに行く途中だ。
謙 信: はだか・・・ああ、まえだどののことですね。
いつき: ・・・あの忍者の姉ちゃんは一緒じゃねぇのか?珍しいべ。
謙 信: いっしょですよ。いま ちょっとみずをくみにいっています。
いつき: 2人でどこさ行くだ?
謙 信: ちょっと おんせんへいこうとおもいましてね。
いつき: 温泉・・・でも、この先は確かおっきいお侍さんの領地じゃねぇだか?
謙 信: ええ。しんげんこうはよいおんせんをいくつももっているのですよ。
いつき: ? 確かおめぇさんたち、ケンカしてなかっただか?
謙 信: ええ。ですが、それはそれ。これはこれです。おんせんは よくつかわせてもらっているのですよ。
いつき: うー。ケンカするのに、仲が良いなんてワケわかんねぇだな。
謙 信: ふふ。おとなにはいろんなじじょうがあるのですよ。いずれそなたもわかるでしょう。
いつき: えれぇ人は大変なんだな。
かすが: 謙信様!お待たせ致しました。ん?お前は・・・
いつき: 久しぶりだな、忍者の姉ちゃん!
かすが: いつき?何でこんな所へ…はっ、まさか謙信様を討とうと!?
いつき: ち、違うだよ!!
謙 信: ぐうぜんあったのですよ。そうだ、むすめ。よかったらいっしょにおんせんにいきませんか?
かすが: え!?
いつき: うわあ!一緒に行っていいだか?
謙 信: たびはみちづれといいます。まえだどののところへいくなら とちゅうまでいっしょではないですか。
かすが: ええぇ〜!!(せっかく謙信様と2人っきりで温泉旅行なのに!!)
いつき: 姉ちゃん、おらも一緒に行っていいだか?
かすが: ・・・謙信様が良いと言うなら、構わない(まあ、いいか)。
いつき: わーい!!やったぁ!
謙 信: ふふ。では、いきましょうか。
いつき: はーい!温泉♪温泉〜♪
かすが: こら、あまりはしゃぐな。転ぶぞ。
いつき: は〜い!


                                                               つづく