俺と叔父さん
−初夏の太陽−


「利ー!釣りに行こうぜ、釣り!」

 前田夫妻が部屋でまったりと過ごしていると、甥の慶次がやってきて、開口一番に言った。
「釣りかー。天気もいいしなー。よし、行こう!」
「やった!」
「まつ、まつも一緒に行くか?」
 まつは少し考えると、残念そうにかぶりを降った。
「行きたいのはやまやまですが、今日は昼から侍女達と台所の掃除をする事になっておりまする。どうぞお2人で行ってらっしゃいませ。」

 正直、夫と甥が出かけるのはまつにとって都合が良かった。
 心優しいこの2人は、まつが掃除をやると言えば、喜んで手伝いを申し出ただろう。一家の主が掃除を手伝うなど余所ではありえない事だが、前田家では普通に行われていた。その事をとても嬉しく思う反面、申し訳ないとも思ってはいたが、実の所、2人とも掃除に関しては少々雑で逆にまつの仕事を増やす事の方が多かったのだ。
 だが、何かと面子や世間体を気にする武士やら大名が多い中、それなりに地位のある前田家の男衆のその心意気は大変嬉しく、それは他国に胸を張って誇れるものだと思っている。

「今の時期ですと、鮎や山女魚が美味しいでしょう。2人とも、がんばって下さいませ。」
「まかせといてよ、まつ姉ちゃん!夕飯用にたっぷり釣ってくるよ。」
「某、まつの為にがんばるぞ!」
「まあ、頼もしい。では、お弁当を作ってきます故、少しお待ち下さいませ。」


 そうして利家と慶次は、まつ特性のおにぎり弁当と釣り道具を手に、里山の中に流れる川へ向かった。
 初夏の里山は新緑が美しく、時折聞こえる鳥の鳴き声を耳にしながら2人は軽快に歩いていった。
「なあ、利。2人っきりで遊びに行くのも久しぶりだな。」
「そうだなー。」
「小さい頃は勝手に屋敷から抜け出して遊びに行って、しょっちゅう怒られてたよなぁ。」
「お前が外へ行こう外へ行こうとぐずるから、仕方なく連れていったんじゃないか。」
「そうだっけ?」
「そうだ。お前は昔から我が強くて、子守が大変だった。」
「ソイツは迷惑だったな。」
「別に迷惑ではなかったぞ。」
「へ?」
 意外な返しにきょとんとする。
「子守は大変だったが、それなりに楽しかった。某が小さい頃は、もっと大変だったらしい。それに、大事な甥っ子の為だ。何ともないさ。」
「・・・」
 平然と言ってのける叔父の後姿をしげしげと見つめる。
 お世辞でも謙遜でも無い、正直な言葉だ。
 嘘・世辞・謀が処世術として当たり前の様に横行する時世に、この叔父だけはそんなものに染まらない、頼らない、真っ直ぐな人だ。だからこそ、多くの人が彼を信用し、慕うのであろう。
 傷だらけの背中を見ながら、改めてこの人はすごいのだと思う。

「…嬉しい事言ってくれるじゃない。」
「ん?どうしたー?」
「何でもないよ。早く行こうぜ。川辺は涼しいだろうなあ。」
 指の隙間から見上げる太陽は南の空の高い所に昇っていた。
「んー。もうそろそろ昼になるなぁ。」
 太陽の位置を見ながら利家がつぶやく。彼の意識は釣りよりも魚よりも、腰に下げている愛妻弁当の方に向けられていた。それを目ざとく察する慶次。
「利、昼飯にはまだ少し早いよ。川に行って、釣り糸垂らしながら、のんびり食べようぜ。」
「そ、そうだな。よし、急ぐぞ、慶次っ」
 小走りに駆けて行くその姿に微笑みを浮かべる。
「はいはい。そんなに急ぐとコケるぞ。」
「大丈夫だ。この山は某の庭みたいなものだからなっ!」
「よしっ、じゃあ、川まで競走しようぜ。勝った方が弁当の沢庵を独り占めってコトでw」
「へっ?」
「じゃ、ヨーイ、ドン!!」
 利家の了承を得ないまま、一人フライング気味に駆けて行く慶次。
「あ、コラ!某、まだ承知してないっ!ズルイぞ、慶次ーー!!」
 やや青ざめた顔をしながら、利家は甥っ子の後を追いかけて行った。  

                                                                 つづく



あとがき
 ヤッチャッター・・・バサラに手を出してしまいますた。当サイトで扱うバサラキャラは、あくまでもゲーム上の設定を主に参考にしています。
 2はですね、各武将のキャラクターが掘り下げられて、イイ感じです。
 1の頃から利家は好きでした。バカップルな所とか、顔立ちとか服装(え?)とか。
 それが2になってからというもの・・・夫婦のストーリーモードでドキュンとヤラれましたよ。
 何、このわんこ。めっちゃ可愛いんですけど・・・!!天然大将だ!!
 もう、至る所に行っては天然パワーを振りまいてくれます。そのセリフ一言一言が私のハートにストライク・直球最速165キロ!!

モエ感動セリフ例(ちょっとうろ覚え)
:まつ・ストーリーモード・対アニキ
⇒『お主、良いヤツだなぁ・・・』(涙ぐみながら)

:利家・ストーリーモード・対佐助
⇒『まつー、某、忍に誉められた!』(嬉しそうに)

:対半兵衛
⇒『・・・お前、悲しそうな眼をしているな。』(しみじみと)

 後はもう、やんちゃな甥っ子(生年が諸説あるので、年上にも年下にもなります)にしてやられまくりな所でしょうか。もう、この2人タマリマセン。しかも、血は繋がってない、というのもポイント♪慶次は、利家の兄の後妻の連れ子です。
 オフィシャル設定で格好のイタズラ(を仕掛ける)相手ですし、叔父なのに『利』呼ばわりですし。
 バサラ2は最強不破・前田家にゾッコン・ラヴですww

 まつ・ストーリーモードのおかげでちかちゃん・利家、というカプにも目覚めました。
 つか、前田夫婦は皆から愛されるといいよ。いつきとか、伊達一家とか、愛に飢えてる半兵衛や毛利とか。
 賎ヶ岳戦でのほのぼのピクニック会話は特に大好き!!慶次の沢庵取ったのは絶対利家だよ。
 ちょっとシリアスな利家なら、濃姫のストーリーモードがイイデスヨ。

 と、長々書きましたが、そんな甥叔父話です。もうちっと続きます。ほのぼのな仕上がりとなる事でしょう。

                                                            060814