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さて、日も暮れて夕食会は酒も入り、賑やかさを増していた。 夕食の鍋も大成功。大きな鍋にたっぷりだった具材も既に底が見えている。 大きな焚き火を囲み、笑い声や楽しそうな話し声が辺りを行き交う。農民も兵士達に混ざり、中には歌など披露している者も出てきた。 いつきも大人達に混ざって楽しそうに談笑している。伊達軍には未婚者が多いので、丁度娘位の年頃のいつきはとても大事に扱われているのだ。 そんないつきを離れた所から眺めている政宗と小十朗。 「楽しそうにしてるな。」 「ええ。兵たちもいつになく嬉しそうにしてます。良い骨休めになりました。」 政宗の勺をしながら、こちらも普段よりは幾分顔が柔らかな鬼軍師。 「酒が切れたので持って来ます。」 空の銚子を何本か手に小十朗は厨房へ向かった。そこへ一人の農民が政宗の所へやって来た。 「おう、アンタは確か、文衛門。だよな。」 「へ、へえ。政宗様、オラの名前、覚えてただか!」 一国の将が、一農民である自分の名前を覚えていた事に驚いた。 「記憶力がいいモンでな。楽しんでるか?」 「へい。オラ達だけこんな良い思いして、村の皆に申し訳ねぇ位ですだ。」 「今度はタップリ土産持って、俺の方から遊びに行くさ。」 「あ、ありがとうごぜぇますだ。・・所で、政宗様。」 「ん?何だ?」 「その、いつきちゃんの事なんだども…」 「アイツがどうかしたか?」 「へえ。実は、昼間話してたのを聞いてたんだばって・・料理の話です。」 「ああ。アレか。覚えてるぜ。」 料理ができるのかどうか問答していたのを覚えている。 「普通の農民の子は、小さい頃から田や畑の手伝いをするんだども、おなごはそれとは別に、母親から料理の仕方も教わるんです。でも・・・」 そこで文衛門は眉をひそめ、言葉を濁した。 「いつきちゃんの両親は、いつきちゃんが小せぇ頃に、死んじまったんです。」 「!!・・どうして?」 「ある日両親揃って田んぼに出だら、そこで戦に巻き込まれて。」 「・・・」 一気に酔いが覚める。 それと同時に色んな事に合点がいった。 どうしていつきがあんなにも戦を憎むのか、平和を望んでいるのか、田畑を愛しているのか。 「両親を亡くしたいつきちゃんは、その後村の皆で育てただ。だども、なかなか料理の方まで教えるヒマが無くて・・・」 「そして今は一揆を率いてあっちこっち忙しい、と。」 眉間に皺を作りながら、政宗は空になったお猪口を置いた。 どうやら俺は、少しばかり不用意な事を言っちまったワケだ。 「その…一応教えておいた方がいいと思いますて。」 「ああ。知っておいて良かったよ。ありがとうな。」 ポン、と文衛門の肩を叩いて席を立った。 いつきは厨房へ水をもらいに行く所だった。暗い小路を歩いていると、人の気配を感じて後ろを振り向く。 「おさむらいさん。」 「よぉ。どうだ?楽しんでるか?」 「うん!腹いっぱい食べたし、色々お話して楽しいだ。」 そう言っていつきはにっこりと笑う。 「good. 所で、少し顔貸してくんねーか?」 「へ?」 「いいから来いよ。」 「な、なんだべ?」 「夜のdateと洒落込もうぜ。な?」 「でぇと?何の事だ?」 不思議顔のいつきの手を取って進む政宗。 すっぽりと自分の手におさまってしまう、小さい手。その手は思いの他しっかりしていた。 子供の手とは、女の手とはこんなに硬いものだったろうか? この手は、まるで自分たちと同じではないか。まだ年端の行かない、この少女が。 「ま、政宗さ。手が痛ぇだよ。」 「! 悪ぃ。」 いつの間にか強く握っていたらしい。 そうしている内に、2人は庭の方へ来ていた。手ごろな岩を見つけて腰掛ける。 「・・・昼間は悪かったな。」 「? 何の事だ?」 「料理の話、しただろ?さっき、聞いたんだ。お前に料理を教えてくれるはずの親がいないって。」 いつきははっとして息をのむ。 「すまなかったな。知らなかったとはいえ、傷つける様な事言っちまった。」 「・・・・・」 それでも尚言葉を発しないいつき。まだ怒っているのかと思い、ふと隣を見下ろす。 「!」 いつきはうつむいて地面をじっと見据えていた。 膝にぎゅっと握り拳を乗せて、口を真一文字に結んだその顔は、明らかに何かを堪えているものだった。 それを見た政宗は自分がまた迂闊な事を言ってしまった事に気づき、自分を叱咤する。 それだけではない。普段は明るくて、たまに憎まれ口を叩くが気立てのいい少女の、今にも泣きそうな顔を目にしたので、戸惑っている。いつもと、違う。 何も言えずにいると、ようやくいつきがちらりと政宗の方を見た。その目の端は僅かに潤んでいる。 何かせずにはいられなかった。 「! おさむらいさん?」 腕を伸ばし、いつきをかかえると、ぎゅっと抱きしめた。 「・・・もう少しだけ、我慢してくれ。俺が、戦の無い国を作ってやる。」 この小さな手が、二度と武器なんて握らなくてもいい様に。 同じ哀しみが繰り返されない様に。 お前が、いつも笑っていられる世界を。 細い腕が政宗の首に回された。 優しくきゅっと力をこめて、いつきは耳元で囁く。 「ありがとな」 笑顔が戻ったいつきを見て、政宗は笑みを浮かべる。 「・・・やっと、笑ったな。」 「へへ。」 「やっぱり、オメェはそうやって笑ってた方がいいぜ。」 「おさむらいさんも、怖い顔よりは、笑った方が似合うべ。」 「You right. でもな、オレ位になると、いっつも笑ってばっかじゃ部下に示しがつかねーんだよ。だからオレの分までお前が笑っててくれ。」 「うん!」 元気良く、笑顔で答えたいつきを、もう一度抱きしめた。 「Yeah! それでこそ俺が見込んだ女だ!」 そう言って髪をくしゃくしゃと撫で回す。 満点の星の下、楽しそうに笑う2人の声が響いていた。 つづく |
あとがき ようやく伊達いつっぽくなりました。 ホントはここで最後まで書けばいいのですが、背景が合わなくなるので、次に持ち越しです。次で終わります。 前回のあとがきにも書きましたが、『いつきの両親は既に死亡説』前提です。 政宗に突然両親の事を言われて、泣きそうになってたんですね。 片親を亡くしただけでも悲しいのに、幼くて両親共なら、もっと悲しいんだろうなあ、と思いまして。 夜のでぃとでございます。第3話めにして、ようやく2人っきりです。 今度は小十朗や前田家とか武田軍加えてどんちゃんぱららなギャグSSでも書きたいなー、と。 061005 |