my fair little lady


 その夜、いつき達一行と伊達軍は城の庭で食事会をする事となった。
 食事会と言ってもかしこばったものではない。伊達軍の兵士達が山から捕ってきた熊やら猪の肉と、小十郎やいつき達が持ってきた野菜を大鍋で煮込んで食べる、という賑やかな催しだ。


「ひゃあ〜、でっけぇ鍋だなあ。おら、こんなの初めて見ただ。」
 両手を広げたよりも大きな鍋を目にして、いつきが感嘆の声を上げる。
「デカイだろ?特注で作らせたものだ。」
 今夜の鍋奉行は小十郎。
 水を張った鍋に味噌と具を入れている。
「いっつもこうやってご飯さ食うだか?」
「いつもはもう少し質素だな。コイツを使うのは、特別な時だけだ。」
「小十郎さん!おらも何か手伝いてぇ!」
「いや、お嬢ちゃん達は客人だ。楽して待っててくれ。」
「え〜」
 小十郎を見上げながら、ぷう、と頬を膨らませて不満そうな顔をするいつき。
 本人は不満気な顔をしているつもりだが、元の顔立ちが年よりも子供らしいので、どうしても可愛い仕上がりになってしまうのだ。

「・・・・」

 幼少の頃の政宗以外、子供と接した事がほとんど無い小十郎は、そんないつきの顔にどうしたものかと困惑する。
 そんな鬼軍師の困惑顔が珍しく、兵士達は食事の支度をしながらも、ちらりちらりとその様子を傍観していた。

「…お嬢ちゃん、可愛い顔が台無しだぞ。」
「だってぇ〜」
 手伝いたいのは半分以上が好奇心からだ。
「…わかった。じゃあ、具を鍋に入れてくれないか?」
「うん!!」
 嬉しそうに箸と具の入ったざるを受け取る。
 鍋の口はいつきがようやく覗きこめる程の高さでぶら下がっていた。何か踏み台になる物はないかと辺りを見回す小十郎。ちらりとガタイの良い兵士に目を留めたが、少し考えて視線を外す。

「お嬢ちゃん、そのままじゃやりにくいだろ。ちょっと失礼。」
「うわっ」
 一言断りを入れると(了承は得てないが)、小十郎はひょいといつきの腰の辺りを掴んで持ち上げた。
「これで大丈夫だろう。熱くないか?」
「平気だ。じゃあ、入れてもいいだか?」
「ああ。なるべく煮えにくい物から順番に入れるんだ。・・そうだな、まずはその芋から…」
「ハーイ!!よいしょっと。」
 小十郎の指示に従い、鍋に具を入れて行く。
 小さな少女を抱えて真剣な顔つきで『これは煮崩れしやすいから最後に』とか『これはじっくり煮た方が美味いから最初に』などと話しかけている鬼軍師を、まるで珍獣でも見るかの様に、でもいざ見つかって悲惨な目に会わない様に、兵士達はこっそりと横目でその様子を眺めていた。


「Hey! 仕度の方はどうだ?」
 さばいたばかりの肉の山が盛り付けられた籠を持って、政宗がやって来た。
「順調です、政宗様。」
 いつきを抱えたままの小十郎に少し驚く政宗。
「…何遊んでんだ?お前ら。」
「遊んでねえ、お手伝いしてるだ。」
「何だよ、お前ら客なんだから手伝いなんかしなくていいのに。」
「私もそう言ったのですが…」
「おらがやりたいって頼んだだ。」
「まあ、お前がやりたいってなら良いけど…ホラ、肉だぜ。」
「うわあ、こんなに沢山!!」
「お前も沢山食って大きくなれよ。」
 くしゃりといつきの頭を撫でる。
 いつになくはしゃいでいる主君を見て、小十郎は口の端を僅かに上げた。

「そうそう、漬け込んでおいてる肉もあっから、土産に持ってけよ。」
「え?でも…」
「馬鹿。ガキが遠慮なんかするんじゃねーよ。なあ、お前ら!」
 柔らかな微笑みを浮かべながら政宗はいつきの頭をこづいた。
「そうですよ、お嬢!遠慮しないで持って行って下さい!!」
「俺ら、お嬢達の為に仕留めてきやしたから!是非!!」
 顔にすり傷をこしらえた兵士達が、慣れない笑顔を浮かべながら応える。

「…みんな、ありがとな。」

 にっこりと笑ういつき。その笑顔に場の空気が和む。
「ようし!野郎共!!さっさと準備しちまおうぜ!早くメシにありつきてぇだろ!!」
「おう!!!」

 そうして慌しく準備が進められ、日が沈みかかった頃には全ての仕度が整い、楽しい夕食会が始まった。

                                                                 つづく



あとがき
 …今回は伊達いつ、と言うよりは小十朗&いつきみたいなテイストになってきましたよw(新カプ!?)
 何か、小十郎といつきで父娘みたいなノリが好きみたいです。(それに政宗込みで好きなのでw)
 オフィシャル設定では明らかになってませんが、いつきの両親は戦に巻き込まれて他界。と思ってます。
 だって、その存在がゲーム上では明らかでないですし、いつきが平和とか田にあそこまで執着するのも、亡き両親の意思を引き継いでいる。と考えれば納得な気がするのですよ。
 元親対いつきの際に出る、『母ちゃんはどうした?』という質問にも答えてませんからね。答えられないのかな?と。

 擬似親子は好きですwほのぼのな小十郎&いつき+政宗が書きたかったんですww
 今まで殆ど接する事の無かった農民、しかも子供で女で可愛いんですよ?きっと、扱いに慣れなくて、どうしようと少しドキドキな小十郎も微笑ましくて良いですw
 後もうひとつ。いつきを『お嬢』と呼ばせたかった!!組っぽくないですか?伊達軍のあのノリだと『お嬢』がしっくり来るのでww

 しかし、メインの伊達いつが後半から登場…次はもうちっと伊達いつっぽくします!!

                                                            060907