my fair little lady


「ランラランララーン♪」

 天気の良い初夏のある日、いつきは伊達政宗の元へ向かっていた。
 先の騒動がきっかけで、いつきは伊達政宗やその部下・片倉小十郎ら伊達軍と顔見知りになっていたのだ。
 今日は、いつき達が育てた収穫したての野菜を、畑仲間でもある小十郎と交換すべく、数人の仲間と共にはるばる米沢までやってきたのであった。

 伊達軍が本拠地としている米沢城の門前に辿り着くと、一行はすぐに中へと案内された。どうやらいつき達が来る事をあらかじめ知らされていたらしい。広い城内の奥へと案内される。そこには小十郎のぷらいべーと畑がある所だった。
 やがて大きな人影が目に入る。政宗のお目付け役である片倉小十郎の姿であった。

「小十郎さ〜ん!!」

 いつきが大きく手を振りながら駆けて行く。いつもは多くの部下から恐れられている小十郎だが、この時ばかりは僅かに笑みを浮かべながら、手を振って応えた。
「長旅ご苦労だったな、お嬢ちゃん。疲れてないか?」
「疲れてはねぇけど、こっちは暑いだな。お水、もらえるだか?」
「そう言うだろうと思って準備しておいた。」
「わー!ありがと!小十郎さん!!小十郎さんて、お侍さんなのに良く気が利くべな。」
「フフ、そうか?」
 その強面の風貌や言葉使いなどから、鬼軍師として兵や民からは恐れられていると自覚はしているが、この少女は物怖じなどせず、平然と接してくる。小十郎はそんな度胸が据わっているいつきに好感を持っていた。
 元々世話好きなのも相まって、年の離れたこの小さな友人と交流を持つのが最近の楽しみになっている。
 今日は互いの畑で採れた夏野菜の交換&試食会。この日の為に、小十郎は忙しい日々の合間をぬって、野菜の世話をしてきたのだ。早速、いつき達が運んできた荷車一杯の野菜達に目を向ける。

「おおっ、これは立派な茄子に胡瓜。こちらは、菜に瓜、唐きびに豆・・・随分持ってきてくれたんだな。」
「今年は雨もお天道さまもたくさんだったから、豊作だべ!それと・・・ほら!」
 いつきは荷車の脇に置いてある袋を開けた。そこには緑の濃い香りとともに、様々な山菜が入っていた。
「山菜か・・・今の時期によく採れたな。」
「おら達の方だと、今が旬なんだ。こっちさ来る途中、山で集めただ。山菜は好きだか?」
「もちろんだ。」
「青いお侍さんは?」
「勿論だ。政宗様は、最近料理に凝っててな。日持ちがして栄養価の高い兵糧の研究をしてるんだ。」
「そうか、良かった。」
 そうして大量の野菜達は城の台所に運ばれ、いつき達は小十郎の畑見学に移る。
 小さいながらも、小十郎の畑には青々とした野菜達が実っていた。これまで独学でやってきた小十郎の野菜作りは、一緒に来た村の仲間から見ても大したもので、その事を指摘されると嬉しそうに顔をほころばせていた。一通り見学が済むと、今度は野菜作りの指導に入る。野菜作りの専門家から肥料の作り方、天気と水の管理、野菜ごとの注意事項などを真剣な眼差しで教わっている。



「Hey!!お前らぁ!」

 日差しが少し厳しくなってきた頃、政宗が畑にやって来た。
「よぉ、いつき。久しぶりだな、元気だったか?」
 政宗は薄蒼の笹模様の着流しという、おおよそ大将らしからぬ格好で畑の中に入ってくると、いつきの頭をぐりぐりと撫でながら話しかけてきた。
「おらは元気だ!おめぇさんは?」
「見りゃわかるだろ?変わりねぇよ。」
「政宗様、その様な格好で…」
 あまりにも軽装な政宗に眉をひそめる小十郎。
「あー、いいじゃねぇか、別に。オレの城でオレがどんな格好しようと No Problem だぜ。・・・ん?どうした?いつき。」
 しげしげとやや下のほうから向けられる視線に気がつき、声をかける。
「あ、いや…兜とか甲冑付けてねぇから、珍しくて。」
 それまで政宗の戦装束姿しか見たことの無いいつきにとって、トレードマークの六爪刀も持たず、着物一枚の姿は意外だった。印象がガラっと変っている。
「どうした?惚れたか?」
 意地悪く笑いながら問うと、いつきは頬を膨らませて『そんな事ねぇだ!』と反論する。
「ちぇっ、ツレないねぇ、 little miss。そうそう、昼飯の支度ができてるぞ。ありがたくも、オレ様が作ったんだぜ。」
「え?おめぇさんが?」
「Yes, I did. お前達が持ってきてくれた野菜も早速使ってみたぜ。」
「へぇ・・・お侍さんでも料理するんだな。」
「他の連中はどうか知らないがな。兵糧の研究がてら、色々やってるぜ。そういうお前はどうなんだよ、一応女なんだから、料理ぐらいできんだろ?」

「・・・おらは、あんま得意でねぇ。」

 そう答えたいつきが一瞬目を曇らせた事に、政宗は気がつかなかった。
「それで、政宗様、今日の献立は何なんですか?夜に使う分は、ちゃんと残してあるんでしょうね?」
「Don't worry 、まだたっぷり残ってるよ。お前たち、遠い所から本当にありがとうな。」
 いつきとその仲間達の方を振り向くと、労をねぎらう。一国の将に礼を言われ、皆どこか恥ずかしげに、でも、嬉しそうにはにかんだ。
「でも、料理が好きだから、料理が上手だとは限らねぇべ?」
 少し意地悪い口調と目つきで、いつきが政宗を見上げる。
「Ha ha-n 言ってくれるじゃねぇか、little miss 。ソイツは食ってからのお楽しみだな。まあ、自慢じゃないが、結構イケると思うぜ。」
 いつきは一瞬、割烹着姿で包丁を手に大根のかつら剥きをしている政宗の姿を想像してしまい、思わず笑ってしまった。

「・・・おい。今何か変な事考えなかったか?」
「いいや、なーんにも。あー、たくさん歩いて腹減っちまった〜♪」
 そ知らぬふりでスキップをしながら少し先を進むいつき。
「いいや、今絶対何かよからぬ事を思っただろ。」
 いつきに追いつくようにスタスタと足を速める政宗。
 『してねぇ!』『した!』と子供のように言い合う2人を、小十郎と農民達は微笑ましそうに眺めていた。

                                                                 つづく



あとがき
 ダテイツです。・・・ええと、政宗が仙台藩藩主になったのは関ヶ原以降。それまでは、生まれ育った山形の米沢城を拠点にしていたみたいです。ですので、このSSでも青葉城ではなく、米沢城を舞台としました。
 ダテイツは、1の頃から好きでした。同じ東北同士だし、何かお似合いですしw
 2ではカナリオイシイ絡みがあって万々歳ですよ!!とはいえ、伊達主従を倒す為、セリフをじっくり拝見する事ができなかった・・・
 今回で、いつきは12歳という事が判明。ちなみに、史実では政宗13歳・愛姫12歳で結婚してるんですよねー。前田夫妻といい、戦国時代の結婚って、10代前半とかは割とフツーだったんでしょうかね?
 とりあえず、これはバサラですので、愛姫の存在はスルーって事でwつか、政宗は同性もおkな人だったのねー。

 何やら前半は小十郎&いつきテイストですが、何か小十郎っておかんっぽいですよね。それまでフツーに893っぽいアニキだと思ったら、野菜作りの名人という、まつストーリーのおかげですっかり私の中ではおかんです。主婦です。まつとか濃姫とフツーに井戸端会議できそうですよ。

濃 姫 :そろそろ夏野菜が出回る時期ね。
小十郎:夏の野菜は、食べる直前まで井戸水で冷やしておくのが良いな。
ま つ :小十郎様の所では、野菜は生派ですか?それとも炒める派ですか?
小十郎:菜ものはやはり生で食すのが、この時期は最高でしょうな。
濃 姫 :ウチでは2人とも野菜嫌いで困っているのよ。二人の所が羨ましいわ。
ま つ :信長様と蘭丸が?野菜の美味しさを知らないなんて、お可哀相に。
小十郎:御安心なされ。私が良い方法をお教えしましょう。政宗様も幼少の頃野菜嫌いだったが、
      この方法で野菜好きになったのです。
濃 姫:まあ!そんな方法が!?是非、教えてちょうだい!

 みたいな(笑)
 小十郎⇒おかん 政宗⇒手のかかる息子 いつき⇒愛娘 みたいな感じです。
 小十郎の気質から見て、いつきの様に、女で子供ながらにしっかりした意志で行動したり、自分や伊達軍の様な一見怖そうな人に対してもフツーに接してくれる肝ッ玉の座ったお子さんは好きだと思います。『大したお嬢ちゃんだ!!気に入った!!』みたいな。

 もうちっと続きます〜

                                                            060815